「最後まで緊張感が続き、長さを感じさせない」最後の決闘裁判 oliveさんの映画レビュー(感想・評価)
最後まで緊張感が続き、長さを感じさせない
レビューの評価の高さに釣られて鑑賞、期待どおりの良作だった。自分が観た回は満席だったが、すでに上映を打ち切る映画館が続々のようで実にもったいない。特に歴史の知識が無くても十分楽しめると思うので興味を持った方は早めに映画館に行くことをお勧めします。
中世のフランス。騎士ジャン・ド・カルージュ(マット・デイモン)と美しい妻のマルグリット・ド・カルージュ(ジョディ・カマー)、ジャンの旧友ジャック・ル・グリ(アダム・ドライバー)の3人を軸に物語が展開、3人それぞれの視点から同じシーン(だが微妙に異なる)が繰り返され、段々と細かい事実が明らかになっていき、事件の全貌が分かるという構成。
ジャンとジャックは百年戦争を共に戦い、親友だったが、ピエール伯(ベン・アフレック)に教養や仕事(税金の取立て等)の腕を見込まれ、何かと引き立てられるようになったジャックと、武骨な性格ゆえ"ゴマすり"などできない真面目なジャンは次第に疎遠に。さらにジャンの父の死後の不公平な処遇によって完全に決別。数年が経ちジャンがマルグリットと結婚後、ジャックと再会し和解するが、マルグリットの美貌と教養にすっかり魅了されたジャックは恋に落ちてしまう。ジャンの留守中、一方的な恋心を押さえきれなくなったジャックはマルグリットを強姦してしまう。ジャックは口止めしたが、マルグリットは事件を全て夫に話し、妻を信じるジャンは無実を主張するジャックを訴え決闘裁判(フランス国王が正式に認めた、神による絶対的な裁き)に持ち込む。勝者は正義と栄光を手に入れ、敗者は決闘で命拾いしても罪人として死罪になる。もし夫が負ければマルグリットも偽証の罪で火あぶりの刑を受けるという、正に生死を賭けた過酷な裁判。
本作のパンフレットには"裁かれるべきは誰なのか"とあるが、やはり旧友の妻を強姦しておいて無実を主張するジャック以外に考えられないと思う。この手の犯罪者の常套句"合意の上だった"とでも言いたいのだろうが、夫が留守中の人妻の家を訪れ、自分は隠れて部下を使ってドアを開けさせ無理に室内に押し入っただけでも既に犯罪だろう。マルグリットに何ら落ち度は無く、ただ教養があり美しいというだけで性犯罪の被害者となってしまい気の毒としか言いようがない。
気になったのはマルグリットの義母の行動とジャックの部下の意味あり気な薄笑い。義母は何故使用人達全員を連れて外出したのか? 何故その日にマルグリットが1人になることをジャックは知っていたのか? 日頃からマルグリットと折り合いが悪かった義母はわざとマルグリットを1人残して外出したのではないだろうか?その情報をジャックの部下に知らせ、部下はジャックを焚き付けて襲わせたように感じた。羅生門のオマージュとも言われているようだが、ジャックの部下の狡猾さはシェイクスピアの"オセロー"のイアーゴウを想起させる。マルグリットの友人も何かを隠しているように見え、カルージュ夫妻の周囲の人間も事件に複雑に絡んでいたように思える。
2時間超と長いが、全く中だるみすることもなく、最後まで緊張感を保ち見応えある作品だった。上映打ち切りの映画館が多いのが残念だ。