「勘違い自惚れ野郎アダム・ドライバーがもはやかわいい。」最後の決闘裁判 せつこんさんの映画レビュー(感想・評価)
勘違い自惚れ野郎アダム・ドライバーがもはやかわいい。
中世フランスを舞台に夫の旧友にレイプされた妻に代わり夫が決闘裁判に挑む話。事件があってから裁判までをじっくり描くのでは無く、事件前から事件後にかけての出来事を夫ジャン、レイプをした夫の旧友ル・グリ、妻マルグリットそれぞれの視点で、3章で描く構成。
なので、同じ場面がそれぞれの視点で出てきて、その都度演出がちょっと変わるのが面白い。まず、全員の章で出てくるル・グリとマルグリットが初めて会い、ジャンとル・グリが一見和解するかのようなシーン。
ジャンの視点では、完全に自分のプライドのことしか頭に無いので妻を道具のようにル・グリとキスをさせ、それが妻の視点では戸惑って動揺している顔がずっと映されている。その一方でル・グリの視点では、マルグリットがキスした後にちょっとル・グリの方をチラッと見るのがわざとらしく映ってる。
さらに、レイプのシーン(これを2回見せるリドリーはハードだ)では、ル・グリの視点ではあんまり抵抗してないように見えるけど、マルグリットの視点ではめっちゃ助けを呼んでるし泣いてる。さらにドアの音がより大きくなっててル・グリの威圧感が強調されてたり。
『羅生門』のような真実はどれか分からないと言っている方多いけど、ル・グリはそもそも女性に対して自分はイケメンなんだから相手も喜んでいると思い込んでいる節があるので、あれは完全に同意のない行為。女性達と戯れている所で同じような構図のベットシーンがあるんだけど、あれだって女性の方は喜んでたかは微妙だねえ。え?って顔してたし。
極めつけは、ジャンの視点では出てこなかったレイプされた妻へのジャンの対応がもう最悪なんだけど、ここが男性が女性のことを無意識に抑圧していることの象徴的なシーンで良かった。ジャンの視点では、ジャンが重要だと思っていることしか出てこないということは、あの対応はそこまで重要じゃない(それを含め妻とのやり取りはほぼ出てこない)と思ってるからだと思うんだよね。
まぁなんか2人のアホな男の話を見せられた後に、マルグリットの視点になるので「いやっ、ですよね?そうですよね?」っていうシーンの連続で楽しかった(笑)それに2人のアホな男、現代の男性もだいたいこのどっちかのタイプの方多いですよ?(笑)
さらに女性の受難あるあるも詰め込まれていて素晴らしい。私的に1番印象に残ったのは、「美男」と言ってたからレイプではなく望んだと裁判で問われていたシーン。「美女」だからヤリたいのはそっちの話でこっちと一緒にすなだった。ここら辺男性中心社会が女性にとって如何に不利かってのも読み取れるし良かった。
ここまで女性映画っぽく書いたけど、最後の決闘シーンはめっちゃ手に汗握って見応えあるし、ジャンの話は出世競走に負けた悲しき男の話でもあるし、男性同士の友情が世情に揉まれて歪んでいく話でもあり、2/3は男の話だから見てください(笑)
どっちの男も女から見ればウンザリという点がおもしろかったですね(私は男ですが)。アダムドライバーが最期まで「同意だった」的なことを言っていて、そう信じているお前はAVの観過ぎだよ!と思わず苦笑いしてしまいました。