「目に焼き付いたのはケツ。」最後の決闘裁判 bloodtrailさんの映画レビュー(感想・評価)
目に焼き付いたのはケツ。
最も敬愛する映画監督の一人である、サー・リドリー・スコット作品でございます。今回もリアリティ追求です。女性の権利や生き方が真のテーマと言う、得意分野です。
三人の異なる視点で振り返っていく事件のあらまし。
かつての親友ル・グリが、領主に取り入り自分を貶める卑怯者だと嫌悪している夫は、妻への乱暴もさることながら、この事件は「ル・グリがもたらした災厄」だと考えており。夫の視点で振り返る「真実」は、彼の単純な思考や頑固さや、世継ぎを生むことと持参金が妻への期待だったと言う中世的男尊女卑思想の持主である事実も、同時に描写されます。
文武両道に秀で、女性を虜にする外見の持主であるル・グリは、マルグリットも自分に好意を持っていると思い込み、マルグリットが一人になった機会を見て訪問。最終的に、マルグリットを力で押さえつけて乱暴するも、それ自体が悪い事だとは考えていません。
マルグリットの視点が「真実」として描写されていきますが、それは事件のあらましだけではなく、当時の女性たちがおかれていた状況、社会的地位、戦争に明け暮れていた時代背景、封建社会の地主達の生活実態、などなども描き出して行きます。
この脚本の建付けは、「同じシーンを少しだけずらすようにして2回・3回と繰り返す」と言う展開になる訳ですが、これを「ダルイ」「冗長」と感じる人もいると思います。個人的には、興味深かったし面白かった。
ル・グリの狼藉を夫に告白した場面。夫の振り返った事実では「君を守れなくてゴメン」なんですが、マルグリットの真実では、夫は怒るばかりで、挙句、妻に床に入るように命令。優しい言葉など、一言も発しない。
ル・グリの命を救ったと思い込んでいるカルージュ。カルージュの命を救ったのは俺だと思っているル・グリ。決闘へ臨むことへの躊躇の無さは、両者ともに自身へのうぬぼれを持っていたが故。
決闘以降は、リドリー・スコットらしいリアリティ追求劇場にございます。天国と地獄です。欧州的残忍性です。
と言うか。最後は。
アダム・ドライバーのケツですよ。
ついこの前、フリー・ガイで、痺れるような二丁拳銃を見せてくれたジョディ・カマー。この時代のドレス、似合い過ぎです。まぁ、話それますけど。二丁使いと言うと、007 No Time To Die でもアナ・デ・アルマスが、ワルサーPPKとH&KのMP7A3のかっこ良すぎる2丁使いを見せてくれました。が、年一はジョディ・カマーですね。バイク背面二人乗りでジャンプしながらの2丁銃、カッコ良かった。
良かった。とっても。
一本の劇場映画として。
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(10/20 追記)
リドリー・スコットによると、黒澤の「羅生門」に触発されたマット・ディモンが企画を持ってリドリー・スコットの元を訪れた事が、この映画の始まりだったそうで。今もなお、黒澤明は世界の映画界に影響を及ぼしているという事を証明する作品、って事ですね。
演出に関して言うと、「徐々に明らかにされていくギャップ」って言う点にリドリー・スコットらしい技巧を感じました。
1stストリーは夫であるカルージュの視点。次がル・グリの視点になる訳ですが、2ndの冒頭は、1stとほとんど同じ視覚・セリフで始まりますが、徐々に1stとの「食い違い」が出て来ます。ここにル・グリと領主ピエールのやり取りが挟み込まれ、「ル・グリの真実」は明かされて行くと、「同じセリフのやり取り」が、見るものに1stとは全く異なる解釈を与えます。
徐々に、カメラの角度・視野が1stとは異なるものになって行き、その相違はマルグリットの3rdストリーで決定的になります。マルグリットから見るカルージュ。マルグリットから見るル・グリ。屋敷の扉の、あちら側とこちら側の差。会話内容の差。などなど。ギャップは、どんどん拡がって行き、決定的な差となるのが暴行場面。
話はサクサク進むんですけどね。3つの物語りで3人の「人間」を浮き彫りにした上で、あの決闘場面があり、雌雄決着後のギャップになる訳ですが。
いや。なんか、やっぱり。リドリー・スコットの撮る「映画」って面白いです。
じっくり眺める価値のある映画であることは間違いないですし、若い人にお勧めしたくなる、映画って何なのかを知る絶好のテキストの様な作品でした。
コメントありがとうございました。
私のお馬鹿な問いかけに、正しい解答をありがとうございます。
決闘裁判・・・決闘で勝った方が正義では、おかしいですね。
13世紀前半にはルイ9世から禁止の法令が出ているのですね。
いい加減なレビューで恥ずかしいです。
blood trailさまのレビューは、もう素晴らしくて(いつも思います、)
噛み砕いて3者の認識のズレなど、とても分かりやすかったです。
本当に良い作品で、もっと時間をかけてよく観るように
頑張ります。
bloodtrail様、コメントありがとうございました。この映画、すごく面白くて、★5にしようか迷いました。①と②は男たちの双方の認識のズレ、③はマルグリットと夫、それから襲われた時の認識のズレ、というのが興味深かったです。
フリー・ガイに出ていた女優さんなんですね。観そびれてしまって残念です。
こんばんわ。人間、こんなもんですよね認識は。事実の根幹はごまかせないけど、細かい周囲の場面で自分に都合の良い記憶を残し、逃げ道を作る。実は映画では妻への夫の態度は見落としてました。2人のライバル心も。勉強になりました。ありがとうございました😊