「よく言えば繊細」ディア・エヴァン・ハンセン U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
よく言えば繊細
随分とストレートな話だった。
俺があまりミュージカルを見ないせいなのか、ずっと重めな内容に驚く。なんか色々と賞をもらった作品らしいのだけれど、ミュージカルがこんな分野に手を出すとはって感じだ。
こんなスタイルもあるのだな、と。
不幸な境遇で歌う事はよくある。でもその心情は、憤りだったり怒りだったり、叫びだったり渇望だったり。表現としては様々なのだけど、背景にあるのは「反発」のように思う。この境遇をなんとかしたい、なんとかなって欲しい、のような。
ところが彼は、どこか受け入れて諦めてる。
この辺が新しいというか、珍しい。
主演の方の表現力は確かに素晴らしかったような気がする。他人に話したくもないような内容をよくぞ歌い上げたもんだと讃えたい。
何かっていやあ自己否定な歌詞だ。
…そんな風に思う人もいるのだなと思う。
たぶん、ちょっと、クラスで浮いてる友達に優しくなれるような作品でもあると思う。
大人になってからは、きっと無理だけど、思春期前半くらいまでなら間に合いそうだ。
「触るな危険」のシールが貼ってあるとは思うし、自らが貼ってるような節もありはするけど、それでも、まだ、壁はそこまで強固じゃないし、壁の中のその子は鎧を着込んで武器を手にしてもいない。
勇気をもって救い出して欲しい。
大人になったエヴァン達は、自らで這い上がるしかないと思う。どうにかして。
こうすれば良いなんてものはない。
映画や小説や自己啓発本にあるような事が、出来るならそんなに悩みはせんのだろ。
自分の事は自分にしか出来んのだ。
自分が選択した事は、自分しか実行出来んのだ。
その実行さえも、自分に委ねられてるのだ。
そんな人から見たらこの作品でさえ「戯言を…」となるのかもしれない。
でも、少なくとも俺は、貴方が歩き出すのを待ってはいれると思う。手を差し伸べる余裕なんてないけども、貴方が立ち上がって歩くのを邪魔はしない。
そんな事を思えた作品ではある。
エンディングの歌詞に「家族や友達の支えがなくても独りじゃない」みたいなのがあって…確かにそういうモノを信じてはみたいけれど、そんな心境ではいられないのだろうなぁと思う。
支えがないならまだしも、攻撃されてるようなシチュエーションもあるもの。いじめや虐待とか。
まぁ、そんな事を思うと結構どストレートな内容ではあったけれど、おとぎ話というか夢物語というか…ミュージカルに相応しい内容だったんだろうなぁ。
独りじゃ孤独も感じられない、なんて歌詞があったな。まさにソレ。
けど、その観点からすると、独りじゃないから孤独を感じるって事でもあり…エンディングの歌詞が言わんとする事から遠ざかってるような、ドンピシャなような。
まぁ、なんだろ?
エヴァンの為の作品というよりは、エヴァンの周りの人達の為の作品なのだろうな。
まだ、圧倒的にそっちの人達の方が多いし、ミュージカルなんてものを観にくる人達もそっち側の人達だろうしなぁ。