劇場公開日 2021年11月26日

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「人は誰も孤独です」ディア・エヴァン・ハンセン おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5人は誰も孤独です

2021年11月28日
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鑑賞方法:映画館

ミュージカル映画とは知らずに選んでしまった本作。歌が始まると眠くなる自分にとっては鬼門かと思いましたが、大勢で歌って踊ってというシーンはなく、ストーリーや人物描写に引き込まれ、全く眠くなることはなかったです。

主人公のエヴァンは、失敗を恐れ、傷つくこと恐れ、行動することから逃げている高校生。そのため友達もなく、学校で孤独を噛みしめていた彼が、セラピーとして書いた自分宛の手紙を同級生のコナーに持ち去られます。その後、コナーが自殺してしまったため、その手紙を見つけた遺族からコナーのことを聞かせてほしいと言われたエヴァンは、本当のことを言えず、嘘をついて親友のふりをしてしまいます。そこから起こる騒動を通して描かれる、エヴァンの変容が見ものです。冒頭で歌い上げる彼の心情と周囲の映像から、早くも胸が締め付けられそうになります。似たような面を持つ自分にとって、彼の悩みや苦しみは他人事とは思えませんでした。

そんなエヴァンに関わる人物として、母親、コナーの両親と妹のゾーイ、コナーのための活動を呼びかけるアラナたちがいます。一見すると、芯の強さを感じる人たちなのですが、実はそうでもありません。それぞれが、さまざまな悩みや孤独を抱えながら懸命に生きている姿もきちんと描かれ、それがひしひしと伝わってきます。

一方で、唯一それに耐えきれなかった存在として、コナーが描かれていたように思います。コナーはなぜ自ら命を絶ったのか、その理由は明確にされていません。ドラッグ依存から立ち直ろうとしている中で、周囲から受け入れられなかったことが、孤独を募らせたのでしょうか。彼もまた懸命に何かと戦っていたのだと思います。

これら登場人物の中に、おそらく観客の誰もが自分を投影できそうな人物がいるのではないかと思います。だからこそ共感できるし、今の自分を見つめ直すきっかけにもなると思います。自分もなかなか一歩を踏み出せずにいますが、せめて周囲にそんな人を見かけたら、なにか一言でもいいから声をかけていきたいなと思いました。

それにしても、エヴァンのその後が気になります。ゾーイとすぐに関係改善するような安いオチにならなかったのはよかったですが、彼の犯した罪はかなり重いものだと思います。彼の性格や状況を考慮しても、安易に許されるべきものではありません。その後、周囲からは今まで以上に距離をおかれ、さらに孤独を味わうことになったはずです。ただ、今の彼ならそれを真摯に受け止め、乗り越えていけるような気もします。

おじゃる