劇場公開日 2021年9月24日

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「耳が聴こえないことで孤立するヒロインの一夜をスリリングに活写、往年の名作への敬意に満ちたタイトな韓流サイコスリラー」殺人鬼から逃げる夜 よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0耳が聴こえないことで孤立するヒロインの一夜をスリリングに活写、往年の名作への敬意に満ちたタイトな韓流サイコスリラー

2021年9月25日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

聴覚障害者専門のコールセンターオペレーターのギョンミは母親と帰宅途中に重傷を負った女性に助けを求められる。犯人と思しき不審な男に追われたギョンミは命からがら逃げるが現場に戻ると女性の姿はなくなっていた。そこに妹を探しているという男が現れ一緒に警察署に向かうが、耳が聴こえないギョンミは危険が自分の身に迫っていることにまだ気づいていなかった・・・。

プロットとしては事故で口がきけなくなった少女が殺人現場を目撃してしまい深夜のアムステルダムを逃げ惑うスリラー『小さな目撃者』を思い出しましたが、耳が聴こえないため背後から危険が迫っても気づかないというありそうでなかったサスペンスを巧みに使った作品。主人公に迫る危険を直接見せるのではなく、車や自宅に設置している警音器のインジケーターや音に反応して動く玩具等で間接的に表現したり、時折音声をミュートすることで主人公の主観を表現したりすることでキリキリとテンションを上げているので、要所要所で現れるアクションカットがくっきりと映えます。ギョンミが見た目の儚さに対して障害者であることで差別的に扱われることに対して毅然と立ち向かう逞しさを持っていることが丁寧に描かれているので、被害者の女性を巡るサブストーリーも織り交ぜながら到達するクライマックスで大勢の人がいるのに誰にも助けてもらえず追い詰められたギョウミの決意が冷たく光ります。

勝手に期待していた凄惨なゴア描写はほとんどなく、その代わりに『暗闇にベルが鳴る』、『暗くなるまで待って』や『シャイニング』といった、観ているだけで息苦しくなるような閉塞感が印象的な往年の名作スリラーに対してたっぷり敬意が払われていて邦題の醸す不穏な雰囲気に対して観賞後の印象は爽やか。サイコスリラーを作らせるとけたたましく笑ったり、ヒャッハーと狂喜したりするステレオタイプなサイコキラーしか創造出来ない粗製濫造の邦画スリラーに対して、冷徹さの中に遊び心を忍ばせる殺人鬼ドシクを演じたウィ・ハジュンの冷たい存在感と、脆さと逞しさを両立させたヒロインを演じたチン・ギジュの凛とした美しさが冴え渡っていました。

よね