「純度100%! これぞジェームズ・ワンの本気(マジ)ホラー!」マリグナント 狂暴な悪夢 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
純度100%! これぞジェームズ・ワンの本気(マジ)ホラー!
当代きってのホラー・マスターがホラー・ワールドにカムバック!
だが、ただの原点回帰じゃない。
熟練のホラー演出は存分に発揮しつつ、大作アクションで培ったエンタメ性、80~90年代のハリウッド・スプラッターホラーのような血みどろ描写、70年代のイタリアン・ホラーのような悪夢感、殺人ミステリーにサイコ・スリラーにモンスター要素まで。
自分のやりたい事、好きなものをたっぷり濃縮。
純度100%のジェームズ・ワン・ホラー!
実を言うと、序盤はちと退屈だった。
悪夢で見た殺人事件が現実に起きる…。
そんな話を聞いていたのに、何処かの病院での奇怪な出来事、夫のDVと幾度の流産に苦しめられるヒロイン…。
おそらくこれらは後々の展開に繋がるとは分かっていても、なかなか本筋に入らず。
しかし見ていくにつれ、いよいよ本筋に入り、怒涛の展開へ。
気付いたら、いつの間にか話に引き込まれていた。
まんまとワンの“犯行手口”に掛かったと言えよう。
さて、その本筋、“悪夢が現実でも起きる”。
言ってしまえば、目新しい話ではない。ホラーやサイコ・スリラーに時々あるっちゃあある話。
それは現実か、妄想か。
精神を病んでいくヒロイン、マディソン。
警察から疑われる。
隠された自身の過去に関係あり。
夢遊病の類いの彼女自身の犯行か、精神障害の“もう一人の自分”の仕業か、それとも得体の知れない“何か”か…?
中盤までは“ありきたり”で見る者を困惑させる。
調査していくと、被害者には共通点が。
その昔、とある病院の研究関係者。プラス、一人の中年女性。
催眠療法でマディソンの中に眠らされた過去の記憶を呼び覚ます。
謎の“何か”の存在が浮かび上がる。
それは悪夢で見た殺人現場にも現れていた。
漆黒の殺人鬼。
マディソンは“彼”を知っていた。…いや、思い出した。
名は、“ガブリエル”。
養子であるマディソンの幼少時の架空の存在。
本当に単なる“架空の存在”なのか…?
だとしたら、どうやって犯行を…?
“姿”を目撃してるし、取っ組み合いも繰り広げたし、“身近”にも感じる…。
JWホラーにはアイコン的な不気味なキャラが付き物。
『ソウ』のジグソウ、『インシディアス』の悪霊、『死霊館』のアナベル人形…。
本作の“ガブリエル”も強烈インパクト。
チラッと見える顔はバケモノのよう。俊敏な動き、人間など一溜まりもない腕力。超能力のような力も持っている…。
JW印の新たなホラー・キャラ、爆誕!
…でも結局は、オカルトかSFチックな得体の知れない何か。
そういうオチか…と思っていたら!
廃院に遺されていたマディソンの過去の記録映像。
幼いマディソンの“背後”に回る。
そこに映し出されていたものは…!
マディソンの後頭部から背中にくっついた“バケモノ”。
実は、マディソンとガブリエルは、一卵性双生児。
身体と身体がくっついた一卵性双生児は症例があるが、これは異常。
身体と身体がくっついてるのではなく、性格に言うと、張り付いている。
しかもガブリエルは、おぞましい奇形児。寄生性双生児。
奇声を上げ、性格も凶暴。悪魔が背中に張り付いているような…。
この手のホラーにありがちな“得体の知れない何か”と“自分自身の犯行”はまんざら外れではないが、それらをこう来たか!…と思わせる予想の斜め上を行った衝撃の正体。
記録映像を見たマディソンの養母と妹の悲鳴も納得。
私もそのシーンには戦慄。やはりジェームズ・ワンは期待を裏切らない。
そこからのなだれ込んでいくような畳み掛ける展開からはもう目が離せなくなった。
全ては脳も身体も支配したガブリエルの犯行。
“悪性腫瘍摘出”と自分を封じ込めた医師、見捨てた実の母親への復讐。
マディソンに必要なのは自分だけと囁き、養父母の事を悪く言い、産まれてくる妹を産まれる前に亡き者にしようとまで…。
何故今になってガブリエルは現れた…?
完全摘出はマディソンの命にも関わるので(それほどまでにガブリエルはマディソンに寄生)、手術で摘出出来るだけ摘出し、出来なかった部分はマディソンの脳に閉じ込めた…筈だった。
が、夫のDVで壁に叩き付けられた衝撃で、覚醒。
その夫のDVや序盤で「?」だった流産や枕の血も繋がった。流産はガブリエルが胎児の栄養分まで吸い取り、枕の血はガブリエルがマディソンの後頭部を割って現れた“跡”。
留置所内で、ガブリエルがマディソンの後頭部を割って現れるシーンは、本当にギョエ~ッ!!
JWホラーはドラマも疎かにならないのが魅力。
衝撃展開と強烈正体、ワン初のR18バイオレンス描写を散りばめつつ、
ガブリエルに支配されたマディソンがそれに立ち向かう様。過去やトラウマとの対峙。
家族との絆。特に“姉妹愛”はドラマの肝。
血を分け身体が繋がった悪の兄弟より、血は繋がっていないものの“愛”で繋がった姉妹。
『アクアマン』を成功させ、『2』の前に手掛けた本作。
大作アクションの間に箸休め、一休止…などではない!
ジェームズ・ワンの“本気(マジ)ホラー”を見れて、その健在ぶりにゾクゾク興奮した!
聞く所によると、本作のアイデアはワンの奥さんからだとか。
ホラー・マスターの奥さんも、“ホラー・マスター・ワイフ”!
(ちなみに奥さんは本作にも出演している女優イングリッド・ビスで、片思いの監察官をユーモラス&キュートに好演)