「まだ明るい空に薄く見える月 、月は自らでは輝やくことはないのです」流浪の月 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
まだ明るい空に薄く見える月 、月は自らでは輝やくことはないのです
流浪の月
2022年公開
重い作品でした
自分のなかで消化仕切れていません
監督によって、説明しすぎないように注意深く製作されている作品と思いました
こうであると一面的な見方をされないようにしてあるのだと思います
私達が、様々に考えて多面的な見方をして欲しい、それを望んでいる作品だと思いました
表面的にこうだから、こうだとか、わかったような気になってこういうことだと、いうのは差し控えて欲しい、
そんな映画だと思いました
まるで映画のキュビズムのようです
あなたの観た角度からだの見え方だけではなく、違う角度から考えてみると、本作は、右顔にも、左顔にも、正面からにも上から観た形にもさまざまに見えています
それをずっと求められた作品でした
流れる水
明るく暖かな日差しをうけて、風に揺れるカーテンがなければ大変に疲れてしまったと思います
まだ明るい空に薄く見える月
月は自らでは輝やくことはありません
照らされて初めて輝くのです
輝くためには、自分を照らしてくれる相手はどこにいるのか、それを探し求めて互いに流浪する登場人物達
松坂桃李の文の演技は素晴らしく、文そのものでした
まるで岸田森を思わせる佇まいでした
ラストシーンの手前
更紗の赤い唇から赤いケチャップがはみ出している
文が注意してやると更紗が乱雑に拭ったのでもっと広がってしまう
文がティッシュでとろうと唇の真ん中に指を近づけてケチャップを拭うとさらに広がってしまいます
やはり文には性的なものに見えなかったようです
並んで寝ていて更紗が文の手を握っても何も起こりません
そうしたことは説明されません
「このまま流れて行けばいいよ」と更紗はこの関係を肯定します
今までの流れる水の心地よさがこの最後に流れるシーンで結論めいて提示されます
青空に三日月が輝いて映画は終わります
月どうしが互いを照らしあっても輝くものなのでしょうか?
輝かなくてもよいのかもしれません
揺らめくカーテンのような心地よさがあれば、輝いているのとどれほどの違いがあると言えるでしょう