「傷付けられた方が癒えない言えない秘密を抱える理不尽」流浪の月 movie mammaさんの映画レビュー(感想・評価)
傷付けられた方が癒えない言えない秘密を抱える理不尽
文がロリコンではないことは早々にわかったし、
更紗が被害に遭っていないことも早々にわかる。
更紗が強引に連れて行かれてもいないのに、文のところに逃げ込みたかった理由は、父が亡くなり母に捨てられ、叔母の居候になり叔母の中2の息子に性被害に遭っていたから。
そうなると、文がロリコンと思われて服役しても構わないほど、絶対に知られたくない秘密って?とどうしても考えてしまうが、どう見ても明かしたくない登場人物を見ながら、それは絶対に踏み込んで考えてはいけない事なのだと思考に蓋をしながら、ずっと見守る鑑賞スタイル。
作中何度も何度も、断片的にではなく、真剣に最初から説明すれば聴いてくれそうな人はいる。
文が逮捕される、絶対に説明しなければならない時もあった。
でも、更紗はどうしてもきっかけの性被害の事実を他人に打ち明けられなかった。仕方ない。
でもそれにより、文の人生は大きく変わった。
傷付いた女の子を見過ごせず、心の交流をしながら自ら最大のコンプレックスを癒してしまったがために。
佐伯が捕まったあとどのように育ったのか、更紗は大人になり自立した生活をなんとか掴んでいる。
周りは必ず過去を知り、憶測で接してくる。
直接ねぇ本当は何があったの?と詰め寄られても、
話せない部分がある更紗は、そもそも誤解を解こうと生きていない。理解されないのだとこれまで何度も味わってきているから。婚約者も、理解してくれない。
それどころか、母に捨てられた婚約者も、更紗に無条件の愛を求めているから、依存しまくり佐伯の影が気になりすぎて病んでいく。
佐伯も、身体が年相応に成長しない病と、その病を受け止められない母親に二重に心を酷く傷つけられて、世間がどう思おうと気にならないが故、誰にも説明しないほどに内向き。
母親に傷付けられた者達の三角関係に、更紗のバイト先の同僚が置いて行った子供りかが、子供時代の更紗そのもののポジションで加わる。
大人になったら文と更紗は、それが更にりかへのロリコン加害と世に見られ全員傷つくことくらい、客観的に考えたらすぐにわかるはずなのに、内向的思考だからか、異常だと思われる客観的視点とそのリスクを話し合えない。ふと気づく。最優先にりかを守る目線を持ち合わせるほど、2人は保護者に愛される経験をしてきてないことに。
身体と心だけでなく、大人の立ち回りを覚える成長をも阻んでしまう、母性欠如の怖さ。
きっとりかのことを守りたかったはずなのに、守れなかった2人。
婚約者も婚約者だが、婚約者に異常だと思われても仕方ない。どんなに近しい人にも、説明していないのだから。
2人で生きるしかない2人の間に、文の彼女も入り込めなかった。
恋人同士よりもずっとずっと深いところで通い合っている2人は、レオンともかぶった。
どちらも死ななくて良かった。
生きるため働くために世に出ると憶測の海。
静かな水の上のようにただ2人の世界で月を見て漂う生活が、1番生きやすいのだろう。
大人になっても夜何度もうなされてカーテンの隙間から空を見上げる更紗が、ぐっすり眠って明るい空を見上げられる時は必ず、文の部屋。
誘拐軟禁ロリコン事件の真相は、年代を超えた人間愛だった。
婚約者のブドウ園からブドウが届いている最初の場面、本当だったら人生で最も幸せ全開な時期なはずなのに。物の扱いが荒い彼氏を、愛してくれる人にならわかってもらえるかもと選んだのが間違いだったなんて。
横浜流星の依存体質束縛DV彼氏役が、似合っていて嫌だ。こなすよねぇそういうのも簡単に。内向きな悩みを不器用にアウトプットする役は完璧コンプリート済みだと思う。
すずちゃんもそろそろ、生い立ちに恵まれた役来ておくれ。