「悍ましくも美しい純愛物語」流浪の月 野川新栄さんの映画レビュー(感想・評価)
悍ましくも美しい純愛物語
2022年映画館鑑賞22作品目
6月6日(月)イオンシネマ石巻
原作未読
監督は『69 sixty nine』『フラガール』『悪人』『許されざる者 (2013)』『怒り』の李相日
雨が降る公園でベンチに座っていた少女時代の更紗は文という男に傘を差され声をかけられた
更紗は「家に帰りたくない」という
両親に捨てられ母方の叔母の家に住むことになったが中2の従兄弟に毎日のように性的悪戯をされるという
文はそれならばうちに来ればいいと意気投合した2人は同棲生活を始める
それを世間一般は誘拐と呼ぶ
楽しい毎日だったが当然のことながら長続きはせず文は逮捕され更紗は保護の名の元に引き離される
「ロリコン誘拐犯佐伯文」「洗脳された可哀想な更紗ちゃん」
それから15年後おとなになった更紗は職場の同僚と珈琲店に入るとそこの店主は文だった
更紗は1人で何度も通うようになり馴染みの客になる
なにかと更紗を束縛する彼氏は文と会うことに反対し激しい暴力を加える
血塗れになって逃亡した更紗は文の元でまた一緒に暮らすことになる
ところがそれを世間は許さなかった
ネット民にマスコミに警察
彼らの歪んだ正義感と悍ましい偏見そして嫌がらせは2人を悲劇へと導く
だがかえってそれが2人の絆をより強くすることになる
1人じゃないから
明日はどこへ行こう
結局のところマイクロペニスの男と幼い頃に性虐待を受けた女の純愛物語である
少なくとも僕は純愛とみた
2人とも所謂セックスレスなわけだがだからこそ純愛が成立するのかもしれない
たけしも志村もコントで男女の仲はセックス次第と言ったがたしかにそうかもしれないがそれだけではあるまい
原作者はBL作家らしいがそれを知るとなるほどそれらしい視点の作品と言える
マイクロペニスについての詳細を書くと削除されそうなので興味があるなら各自でネットなどを利用して調べてほしい
濡れ場と暴力シーンがエグすぎる
広瀬すずのオッパイが露わになるのではと期待と不安が入り混じったが杞憂に終わった
亮の更紗に対するDVに至っては惨すぎてとてもじゃないが見てられない
李相日監督の良いところはCGを使わないところだろう
生の人間と人間のぶつかり合いで勝負する
それには役者に対して高い演技力が求められ執拗なまでに妥協を許さない
脚本とかカメラ割とか原作との相違点とかそんなもんは二の次で役者の芝居が一番重要だと断言する自分にとっては彼の作品はわりと相性が良い
松坂桃李はいつもの松坂桃李でこういう引き出しがあってそれを出したまで
だけど広瀬すず横浜流星多部未華子趣里の4人は明らかに李相日の演技指導が功を奏したのか過去と比べて断然良かった
趣里はあのキャラがハマっていたしあゆみが文を問い詰めるシーンでの泣きじゃくる多部未華子は心を打った
広瀬すずは明らかに姉と違う方向に行っているようで李相日監督の次回作に出演するとしたら全裸披露か拷問を受け殺されてバラバラにされる役とかではないかと
そして誰よりも驚いたのは横浜流星の芝居だ
彼がこんなに旨い役者だとは知らなかった
名前と見た目がかっこいいだけのイケメンだと評価していたがあまりにも見くびっていた
亮の更紗に対する怒りや束縛や暴力に幼少の頃に経験した深い悲しみが透けて見える芝居を彼はやってのけた
少なくとも僕はそれを感じた
更紗を追いかけ包丁で刺すのかと思いきや自傷し救急車に運ばれる不条理もなんとなくだがわかるような気がした
更紗を拒否した亮は全てを諦めそして悟ったのかもしれない
ただ唯一苦言を呈するならどうせならもっと激しく広瀬すずのオッパイを揉んでほしかった
『侍ジャイアンツ』の番場蛮が分身魔球を投げる時のように握りつぶすような感覚で「痛い!」と声をが出るくらいに荒々しく
松坂桃李が薄暗い部屋で全裸になり振り返ったのでダメダメと思いつつも「どうせボカシが入るでしょ」と高を括っていたがよくよく見ると「ん!?」
娼年を演じた松坂桃李らしからぬお弁当に思わず入れたいポークビッツのよう
昔8時だよ全員集合前半のコントで家族旅行だったときに子ども役のカトちゃんが帽子を被るのを忘れて取りに行ったら今度は下半身丸出しでやってくるというのがあったけどそれと同じやつだろう
松坂桃李もいろいろとやらされるね
日本の俳優に乾杯
李相日監督に乾杯
日本映画万歳
可哀想じゃないヒロイン家内更紗に広瀬すず
更紗の幼少期に白鳥玉季
引きこもり気味で虚無的な佐伯文に松坂桃李
猟奇的な更紗な彼氏・中瀬亮に横浜流星
桃李のカノジョ谷あゆみ多部未華子
更紗が勤めるファミレスの同僚・安西佳菜子に趣里
更紗が暫く預かることになった佳菜子の娘・安西梨花に増田光桜
更紗が勤めるファミレスの店長・湯村に三浦貴大
文の母・佐伯音葉に内田也哉子
文の珈琲店の下の階でアンティークショップを営む阿方に柄本明