「誰も、なんも、知らないくせに」流浪の月 グレシャムの法則さんの映画レビュー(感想・評価)
誰も、なんも、知らないくせに
原作では、タランティーノ脚本、トニー・スコット監督の『トゥルーロマンス』が重要なモチーフになっています。
原作を読んでおくか、映画から入るかは人それぞれですが、『トゥルーロマンス』はできれば見ておいたほうがいいかもしれません。
と、下書きしておいたのですが、本日やっと待ちに待った公開日。
以下は、映画鑑賞後に追記いたしました。
(一部、ネタバレ含みます)
ただ、『真実は違うのだ』と心で訴え、ステレオタイプの常識からの攻撃に対して静かに抗ってるだけなのに、いつでも理不尽に叩かれる。同情的な店長のように「俺は味方だし分かってるよ」的な人たちの善意すら、被害者と犯罪者と捉えてる時点で、2人にとっては理不尽な暴力装置として働く。
…誰も、なんも、知らないくせに。
原作の中で、ネット動画を見て文と更紗の事件のことを無責任に批判している若者たちを見て、13歳になった梨花がつぶやきます。2人のことを〝なんも知らなくない、かなり理解している〟友達として文と更紗とはずっと付き合いが続いていくのです。
原作の場合、事実を俯瞰的に見ている読者は、色々な場面で〝そこはきちんと訴えれば良かったのに〟というもどかしさで歯痒くなるのですが、映画ではその相手としての役割は亮くんが背負うことになります。世間という敵に比べると個人寄りになってしまう分、少し軽くなります(もちろん、暴力行為の罪自体は少しも軽くありません)。その分、嫌がらせのチラシやスプレーでの罵詈雑言が〝世間の面白半分の悪意〟を強調します。
(原作の中の一場面…更紗の場合)
文の部屋で、『トゥルー・ロマンス』を見ているとき、更紗はこう思うのです。
アラバマ、大丈夫だよ。クラレンスは死なないよ。
最後はふたり一緒に幸せになるよ。
だけどわたしはいつまでも絶対絶命のままだ。
この先、生き延びられる術があるとしたら、文の隣りだけだ。
映画の中で、更紗は亮くんに向かって言いました。
私はあなたが思うような可哀想な人ではないよ。
そう言える強さの源泉が、『トゥルー・ロマンス』へのコメントから伝わってきます。
(原作の中の一場面…文の場合)
『この木、ハズレね』
文が幼い頃、文の母親は、庭に植えたトネリコが順調に育たないのを見てそう言って、直ぐに業者を呼んで植え替えさせます。
性腺機能低下症(原作では具体的に書かれていないので、この病名は推察です)のことを誰にも打ち明けられない文はこう思う。僕もハズレなのだ。
映画は、終盤までかなり観念的な表現に徹しているので、説明的な台詞や場面も少ないうえに、時系列が前後したり、イメージと現実が混在しています。
原作を未読の人にとっては、分かりづらいと思います。しかし、ラスト。文が裸になり告白する場面で一気に溜まっていたマグマが噴出します(舞台挨拶で広瀬すずさんがマグマのことに触れていました)。
観念と現実的な痛みが、劇的に繋がり押し寄せてきます。
性的な繋がりのない文と更紗の関係性こそが、李監督にとっての『トゥルー・ロマンス』だったのですね。
なるほど…。
※映画の中では、『トゥルー・ロマンス』はまったく出てきませんが(筒井康隆原作のパプリカのアニメは出てきた)、主人公ふたりは、危なっかしくて見ていられないほど無鉄砲で純粋なのです。タイプはまったく違うけれど、理不尽な暴力に負けない根性がとても崇高で魅力的❗️
グレシャムさん、コメントありがとうございます。
映画が救済されるべき人を見せてくれればそれに気づきますが、現実社会で誰が救済されるべき人かを見抜くのは難しいですよね。
私もこの映画の刑事たちのように、文のことを状況証拠だけで決めつけてしまうかもしれないと思ったりして、怖かったですね。
大吉さ〜ん😆
こちらこそありがとうございます。
『トゥルー・ロマンス』ファンがひとり増えたというだけでとても嬉しいです。
ホント最高です。もしかしたら今見ても、というより今だからこそ沁みてくるアラバマの真っ直ぐさ、そう思います。
美紅さん、ご覧になられたのですね。
その人のことを本当は何も知らないのに、知った気になって、かわいそうと決めつけるのは、とても傷つけることがあるし、絶望的なほど悲しくさせることもあるのですね。
周りから見ると歪んだ愛に見えても、私には純粋な愛に見えました 。 儚さ、文が母に
やはり、僕ははずれですか❔、更紗が私は、かわいそうな子ではないよ。と言ったときの悲しい瞳が、心に残りました。
今晩は
今作品、私はとても響きましたよ。メイン役者さん達の頑張りや、脚本及び作品構成の巧みさに・・。
ところで、グレシャムさん、今作、試写会で鑑賞されたのですか?
『トゥルーロマンス』観よう!と思ったら、配信で流れていなかったです・・。残念だなあ。では、又。
こんにちは!
グレシャムさんのレビュー読んで補えました!
トゥルーロマンス当時に観たはずなんですが全く記憶になく、、、
観直してからまた改めてこの映画を観てみます!!
レビュー読んで頂き有難う御座います❣️私のミーハーな浅い評価を、、、💦
グレシャムさん、下書きだったのですね!確かに、グレシャムさんのレビューにしてはアッサリだなって思ってました😆
原作未読だったので仰る通り、ちょっと分かりづらくて、文が最後に服を脱ぐシーンで腑に落ちました。