劇場公開日 2021年10月2日

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「新時代の映像人類学者」カナルタ 螺旋状の夢 osincoさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0新時代の映像人類学者

2023年9月28日
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この映像を撮らせた監督はいったい…

田中泯さんを撮った犬童一心監督にも感じましたが、この人物の映像を撮らせるという撮影者の力量。
そこにまず興味が湧きました。

友人が上映を企画してくれたのですが、
なんと太田監督をお招きしての上映会。

光海監督はイギリスの大学で映像人類学を専攻していて「カナルタ」は大学の卒業制作として撮影されたそうです。
フランスに住んでいる際に、日本・アジア人差別といった立場を経験して、ひたすら映画館に篭っていたそうです。その経験が少数民族や映像への関心に繋がっていったと話してくれました。

監督自身がアマゾン先住民の住む現地に1年間滞在して、撮影時間はわずか40時間ほどだったと言います。映画の中では1日でやってそうに見える事も実際は4〜5日かかっていることも多く、そのうち3〜4日は一緒に作業を手伝い、こう撮ろうと決めて1日で撮る、というスタイルだったそうです。

映画が進むにつれ、セバスティアンがどんどん心を開いて名前を呼ぶことが増えていきます。
仲間として認められるくらいドップリ順応していたことが伺えます。

セバスティアンが斧で大怪我をしたシーンは壮絶でした。医療資格を取得した息子さんが施す現代医療は役に立たず、薬草に切り替えて自力で治してしまいます。回復後は背部に傷が見えるものの、かなりキレイな治り方でしたし、またターザン並みに飛び回ってました。

村人達は街に出た時に市販のビールなんかを買ってくることはあるんだけど、どこの誰がどんなもの使って作ってるかわからないから、体に良くないと思ってるそうです。それよりうちの女達が作った酒(バナナ噛み噛みしてペーして作るやつ)の方が遥かにうまい、と。

映画の中では、とにかく男は男らしく、俺の強さを見ろ!女は酒を作り飯を作り、子供を育て、家を守る、という姿が出てきます。
ジェンダー問題とかいろいろ言われていますが、自然界の根本ではやはり男と女はハッキリと役割が違うものなのでしょう。

多様化が認められるのも現代社会の中の自然ではあるんでしょうけれど、種の根源的なことを言うと、どんどんシンプルになるんじゃないかな、と思います。

上映後の質問会でこれまた回答力がハンパなく高く、参加者からの質問も止まりません(上記の内容はその時の話も混在しています)。
その質問はちょっと…と思うようなものでも、納得度高すぎの回答が出てくる監督、1989年生まれですよ…

あとから「その回答力は一体どうなってるんですか?」と本人に直接聞いてみたら、「同じ言葉を使わないようには気をつけています。伝えたい内容は一緒でも形を変えてます。」

と言うようなことを仰っていました。
彼の言葉は各種SNSで見られますが、ハッとするような言葉がたくさん。

デジタルネイティブ世代というか、新時代の人達が現れ出してるな、と感じます。
PCのスペックが違うように、情報処理能力やメモリ機能とか、性能全般が格段に上がっているというか…
飾らず気取らず、常識に捉われず、サラリと極地に行ってしまう。そんな人でした。

追記

9月の鑑賞後の10月に、出演者のセバスティアンの訃報が届きました。
その時の太田光海監督の言葉がまた、、とても胸を打ちました。ご存命中最後の上映会を鑑賞できたことに感謝申し上げます。

osinco