「壮大で美し過ぎる絵空事の街」アリスとテレスのまぼろし工場 Uさんさんの映画レビュー(感想・評価)
壮大で美し過ぎる絵空事の街
初秋に観た不思議なアニメのレビューを、結局、物語世界と同じ冬の季節に投稿することになってしまった。映画と同じく、冬でも凍てつく感じではない。
◉風景のこと
まず、校舎を照らす夕陽の影や川沿いの道、廃工場の赤錆びた鉄骨や線路脇の微かな草地のことを書かねばならないと思う。ノスタルジックな景観が、本のページを風がめくるように次々、現れてはひと時わだかまって、また消えた。霞んでいく様も滲んでいく様も、とてつもない美しさと、途方もない儚さ。
逃げ水のような実在感の希薄な景観。それはそうか。まぼろし工場の生産するものと言えばある意味「絵空事」だ。
◉街の人のこと
人々の姿や表情も、何故かノスタルジーたっぷりに見えて仕方なかったのですが、彼らが未来をなくした時空の漂流者なのか、死を忘れた死者なのか、終盤まではっきり分からずに観ていました。五実が祭で迷子になって街に紛れ込むシーンに至って、死に気づかない死者たちの物語だったのだと、一瞬、判った気がした。「天間荘の三姉妹」に登場する三ツ瀬のような。
ところが正宗が列車から飛び降りて街へ戻るのを見て、あぁこの人々は死者ではなくて生者ではあるが、時を失ってすくんだまま霞んでいく存在なのだと気がついた。
正宗と睦実と五実が存在する時制と、三人の関わりが最後まで判りにくかったのは、私にはやはり辛かったのですが。
それにしても、亀裂の向こう側に見えているのが現実であると知ってからの気持ち悪さ。不快感ではなく、不安感。崩壊しているのに、季節は冬のままの一見、穏やかにも見える魔法の街。ハッピーエンドとかバッドエンドとかとは、全然違う収束になるなと思った。全てがなくなる、あるいは初めから何もない。見続けてはならない、目を伏せて生きるのだ。だから見伏?
◉激情のこと
自らの命と引き換えるように、生きる歓喜と苦悩を、激しい叫びと泣き声で表す五実。壊れてしまうまで止まらない、獣みたいな激しく自由な生のままに育っていった。彼女が突き破ろうとする壁が、やたらに眩しかった。
正宗と睦実の執拗なまで、いや執拗を越えた抱擁と口づけを見ているうちに、人を思う熱い気持ちと、人から思われる温かい気持ちは、それっきりに縋りつく哀しい感触はあろうとも、取りあえず生きる糧にはなる、魔法は一瞬のために存在すれば、それで良いのだと感じました。
ただ、他のどんな場所とも隔絶されていたら、経済や社会は成立しないのに、人々は自給自足ではなく生きていた。ここで、街の生活はこうした手段で成り立っていると言う、何でよいから説明が欲しかったかなと、思いました。魔法にも更なる現実感があったら。
Uさん、またお邪魔します。
>あの不思議で不可解な終わり方。五実は未来に、無事着地できたのでしょうか?
エンディングの後(だったか曖昧です・-・;)、廃墟となった工場跡
にタクシーでやってくる若い女性がいたかと思います。
その子が未来の五美で、携帯電話で誰かと「大丈夫だから」と会話
しているのですが、会話の相手が母親(睦美)です。
作品中ではほとんど流れるように会話が終わり、「父親は誰?生き
てるの?」という疑問が残ったまま映画館を後にした記憶があります。
このあたりも含めて、重要な設定が殆ど明かされずに話が先にと進
むので、劇場鑑賞中に理解追いつくのは非常に困難だった訳ですが
それだと悔しい・_・ので原作本を読みました。
五美(本当の名前は沙希)は未来で両親(正宗と睦美)の元に帰る
事ができ、一緒に暮らしているようでした。祭りの日に行方不明と
なって十年後に戻ってきた、という事になっているようです。
正宗と睦美だけが、あの工場(死者の世界)にいながら未来世界で
も生きていたということなのかな、と思うのですが、どうしてそう
なったのか等は原作本でも明らかにはされていないようでした。
もう一度、じっくりと鑑賞し直したい。
私にとってそう思わせてくれる作品なのは間違いないです。
Uさん、共感&コメントありがとうございます。
設定に関する説明は少なく、時が止まった空白期間の描写もないので、なかなか難しい作品だと感じました。でも逆に、想像力を働かせる余白の多い作品だとも言えそうです。Uさんのレビューを読んで、もう一度観てみたくなりました。
Uさん、共感ありがとうございます。
>死に気づかない死者たちの物語だったのだと
私には、鑑賞中にこの設定に気付くのは困難でした。
とにかくこの作品の世界観が分かり難く、「?」が
頭の中にたくさん現れながらの鑑賞でした。?_?
帰宅後に中島みゆきの主題歌「心音」を聞き、歌詞を
見て初めて " ああ ” となりました。・_・
「台本を読んでから詩を書いた」そうで、この作品の
世界観が良く現れた曲になっていると思います。
" 未来へ~ "のフレーズを聞くたび、五美を列車で送り
出す場面が浮かんできます。
叙情的でかつ読み応えのあるレビューありがとうございます。「目を伏せて生きるから見伏」秀逸な考察だと思います。
多くの大人には、先が見えないままに何かに打ち込む少年少女たちに対して、自分たちに代わって何かを成し遂げてくれるかもしれないという期待と、自分もそうしたかったが、共同体と子供たちを守るためにリスクを冒せなかったという羨みや妬みの気持ちがないまぜになっているかもしれないと考えました。眩しすぎて目を伏せるのだと。