「アートと現象と主題歌が魅力の全てな気もする」アリスとテレスのまぼろし工場 エイプさんの映画レビュー(感想・評価)
アートと現象と主題歌が魅力の全てな気もする
手放しに良かったのは、美術の凄さと、現象と、映画の内容を非常に想起させる中島みゆきの心音という主題歌です。
まず映像がとても綺麗です。背景のショットひとつひとつが、まるで絵画のようです。描き込みがすごい。
また、その背景の前のキャラクター達が引き起こす現象について、シーン一つ一つのこだわりを感じます。引き起こることが不条理なく、世界観の法則によって、繊細に描くことを頑張っています。
主題歌は、圧巻の一言。映画を見た者は、中島みゆきの他の曲も聞きたくなるでしょう。
ここからは自分があまり納得いかなかった要素です。
語りたいのはキャラクターです。
まず、予告では映画の仕掛けについての世界観の不条理を解く中にドラマがあるような触れ込みでした。が、実質は殆ど思春期の少年少女の悩みを中心とした割と普遍的なものが強く、思った以上にキャラクター達の意思が平べったいというか、動機の味付けが薄かったのがとても残念です。
あと、アニメ作品においてとても重要な要素だと自分は思っているのが、主人公の容姿です。あ、ビジュアルが良い悪いとかそういう話ではないんです。それで言えば今作の主人公正宗くんはかなりのイケメンでしょう。
そうではなくてですね、人目見て、口で説明しなくても性格がわかるほどの強いキャラクターを持つことも、アニメ作品においては非常に重要なんです。
パッと見て、正宗くんの性格を想像出来ないんですよ。優しい子にも見えるし、やさぐれた子にも見える。良い意味で言えば、複雑性と内に秘めた思いが強い思春期の少年、と言えるんでしょうが、それは本編を見たから分かることであって、結局コンセプトが分かりづらいのでパッと見で伝わらないんです。
これはヒロインの睦実も同様です。分かりづらいっ。
なんならですね、不思議な少女イツミ、父の昭宗と叔父の時宗、同級生の笹岡のほうがよっぽどキャラが立ってるんですよ。パッと見の見た目通りのことを作中でやるので。
有り体に言えば"主人公とヒロインのキャラが弱い"です。訴求力が足りない、だからどこか薄っぺらい。薄っぺらさが人間味を感じず、主人公の視点から見る物語に心が動かない。
美術も世界の仕掛けも頑張ってて、そこに物語をのせる技術、主題歌は素晴らしいのに、そこに生きるキャラクターがイマイチなのが、とても残念でした。
評価してるところは皆さん、世界観の仕掛けですけど、それを解き明かしたからなんなんですかね?とも思えてしまう。ぶっちゃけ。