劇場公開日 2023年9月15日

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「複数回見ないと理解できないかも」アリスとテレスのまぼろし工場 渋谷本町さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5複数回見ないと理解できないかも

2023年9月18日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

怖い

難しい

2回鑑賞後です。前情報があっても、一度では理解できない部分が多々あり、複数回鑑賞をおススメします。

2回目のエンドロール「心音」、響きました。脚本に惚れ込んで紡がれた音色は、中島みゆき節全開です。「綺麗で醜い嘘たちを・・・」。こんな歌詞、彼女にしか書けません。1時間50分の物語を5分28秒に凝縮した世界観。センテンスの語彙力。心に残響を与えてくれました。疲弊したコロナ禍を生きる私たちへの応援歌であるとも考えます。

この映画でクローズアップされるのは主題歌と共に、背景やキャラデザなどの描写力が多くを占めていると感じます。個人的には、監督と同年齢であり、1991年の時代設定も、当時14歳と、主人公とドンピシャで、1度目では刺さらなかったセリフや音楽、設定が、2度目の鑑賞では強く刺さり、エンドロールで余韻に浸ることができました。牛乳パック「ピクニック」の自販機とかめっちゃ懐かしかったです(笑)

音楽について、神機狼と呼ばれる不気味な工場の煙が蠢く時、合唱の曲が流れていたと思います。実際に中高生の音源を使っているそうです。大人にはない未完成の響きが、逆に恐ろしさを演出しています。サントラ、買っちゃおうかな(笑)。「心音」も入っているし。

他レビューで「中学生が車を運転している」とありましたが、ヒロイン・五実の成長から考えて、8~10年はこの世界に閉じ込められていると推定されることから、免許を与えられてもおかしくはありません。容姿は中学生ですから、違和感ありますが・・・。
五実の狼少女となった経緯も、幽閉されていれば当然のこと。「無垢」の演出上、致し方ないと思います。彼女の終盤のキーワード「居たい」。「痛い」に代わる演出が個人的には好きです。

これは現実から切り離されたパラレルワールドのお話。数年間に及びヒロイン・五実が神隠しに遭遇し、時が進まない世界線において幽閉された、主人公たちの心の葛藤を描いた物語。そのように私は捉えています。コロナ禍を生きる私たちには響く作品だと思います。
物資はどうやって調達しているの?ラジオの電波はどこから来ているの?その後のあの世界線はどうなったの?とか深く考えないで見るべきです。複雑な設定なので「初見殺し」と考えます。2回以上は鑑賞して、レビューを挙げるのが良いと思います。

「あの花」「ここさけ」のような『感動』というキーワードをご所望であれば、監督の前作、「さよならの朝に約束の花を飾ろう」を強く、強く!オススメします。エンドロールは目にワイパーがないと見えなくなります(笑)

渋谷本町