「分からないことが多すぎて、頭が追いつかない」アリスとテレスのまぼろし工場 tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
分からないことが多すぎて、頭が追いつかない
アニメーションは美しい。
ひび割れた空を、製鉄所から湧き出た煙が修復していくイメージも面白い。
ただ、その一方で、分からないことが多すぎる。
まずは、舞台となる「この世界」の設定がよく分からない。
人々は外に出られないのに、電気や食料等は普通に供給されているようだが、時間が止まっているので、実は供給も消費もされていないということなのだろうか?
それでも、昼や夜になり、天気も変わるので、一定の時間が流れているのは間違いなく、だったら、タイムループを繰り返しているのか?とも思ったが、そうでもないらしい。
正宗の父親のノートにあるように「死後の世界」であるならば、時間の概念もなく、辻褄が合うのかもしれないが、現実の世界の正宗や睦実たちは死んでおらず、生きて、歳を取っているということなので、ますます混乱する。
おそらく、空間や時間が閉ざされたパラレルワールド、あるいはマルチバースという考え方が最も理にかなっているのだろうが、そこまて納得するのに時間がかかり、なかなか物語に入り込むことができなかった。
それだけでなく、登場人物が、何を考え、何のために、何をしようとしているのかも、よく分からない。
もしも、1つの場所や時間に閉じ込められてしまったら、みんなで協力してそこから脱出しようとジタバタしそうなものだが、町の人々が、整然と日常を送っていることに、まず、違和感を覚える。
どうやら、それは、「変化してはならない」というルールのせいらしいのだが、そんな、何の根拠もないルールを盲目的に信じて、「確認表」を作って付き従っている人々の姿には、不気味ささえ感じてしまう。
「心を動かしてはならない」という同じようなルールにしても、正宗に告白してフラれた少女はひび割れて消えてしまったのに、告白して両思いだと分かったカップルが消えないのはどうしてだろう?
告白することや、それに応えることは、十分に「心を動かす」ことだと思えるのだが、フラれたら存在が消えてなくなり、両思いだったら消えないというルールでもあるのだろうか?
しかも、自分がフッたせいで少女が消えてしまったというのに、良心の呵責や自責の念にかられる様子がまったく見られない正宗は、人間としてどうなのか?とも思ってしまった。
それ以上に分からないのが、睦実の父親(工場長?)で、五実を工場に閉じ込めていたかと思えば、神様に捧げようとしたり、結婚式を挙げようとしたりと、いったい何がしたいのかが、さっぱり理解できない。
そもそも、最初に五実を見た時に、どうして彼女が現実の世界の人間だと分かったのかが説明されないし、どうして彼女を「この世界」の脅威だと思っているのかも分からない。
五実が生まれるまでの時間や、五実の年齢を考えると、「この世界」が始まってから20年近くが経過しているはずなのだが、そんな時間の感覚が希薄なのも、物語を分かりにくくしている一因なのだろう。
睦実にしても、名字が違うのに、五実の名前を見て、どうして(現実の世界の)自分の子だと分かったのかが不明だし、わざと距離を置いて「好きにならないようにする」理由もよく分からない。
まがりなりにも親であるならば、子供を助けよう(現実の世界に戻そう)とするのが普通のリアクションなのではないだろうか?
睦実が、現実の世界で政宗と結ばれたことを知りながら、必要以上に正宗を拒む理由も分からないし、親子での三角関係にまんざらでもない様子も、なんだか気持ち悪い。
さらに、正宗が五実を現実の世界に戻そうとしている時に、それを阻止しようとする友人も、どういう理由で、何をやりたいのかがよく分からない。
彼女の行動は、「五実がいなくなったら「この世界」が崩壊する」という明確なルールがあってこそ、説得力を持つのだろうが、結局、五実がいなくなっても、そうはならなかったので、あの騒動は一体何だったのだろう?という気分になってしまった。
もしかしたら、何度か観たら理解できるのかもしれないが、一度観ただけでは分からないことが多すぎて、あれやこれやと考えを巡らせているうちにエンドロールになってしまった。
そんな映画だった。