「超不思議なほっこり感漂う作品」愛なのに R41さんの映画レビュー(感想・評価)
超不思議なほっこり感漂う作品
愛憎劇ほど泥沼という言葉が似合うものはないが、この作品の中で表現されている登場人物たちの気持ちには、一般的な感覚である愛憎というおどろおどろしいものはなく、愛憎劇という概念を様々なドラマなどで洗脳されてきたのではと気づかされるほど、人の本心を純粋に描写している。
真っ黒い画面に浮かび上がるタイトルは、左半分に偏っていて、右にも文字を入れられることがわかる。つまり、感じたとおりに「タイトルに続く文字を書け」という作品からの指示だ。
女子高生ミサキからコウジに対して告白と求婚という設定。それは一度や二度ではない。
コウジには好きな人がいて、結局フラれるがそれは今でも引きずり続けている。
その相手一花は、もうすぐ結婚するが、夫となる男はよりによって結婚式の担当者と不倫中だ。
この作品のテーマはズバリ「愛」なのだが、それを結婚というモチーフを使って描きながら、視聴者に考えさせるように仕組まれている。
誰かが誰かを好きなる。この単純な公式なのに、そこに他の誰かが存在することで事態がとてもややこしくなる。
そしてそこにあるのが「常識」とか「思い込み」そして「当たり前」という他人への押しつけと同調圧力だ。
31歳の男に告白する16歳のJK。
彼女を好きな同級生。彼の言葉「あなたは岬のことをどう思っている?」
実際こんなことが起きれば返答に困るだろう。
一花の夫の不倫は、ただの不倫で二人ともあとくされはないが、それはいいのかダメなのか? 第三者は何か意見を言えるのか?
ラブホのライター 詰め寄る一花 もっともらしい理由を言う夫 どうしても「許せない」思い。
一花が出した答えは「私も同じことをして、同じ立ち位置に立って、もう一度スタートする」
夫の理由と同じ環境にあったのが「コウジ」 彼の再三の進言に「だったら他の誰かとする」という言葉は決定的だ。これを言われて何もしない男はいない。
その時コウジの頭にはまだ岬はいない。
コウジは岬から最後の手紙を託される。そこにあったのは白紙の便箋。
「ちゃんと返事を言葉にして」 彼女からの依頼。
一花は夫に正直に言った。 夫との復縁。 しかし披露宴の打ち合わせも気はそぞろ。
引き寄せられるようにチャペルへ行くと、そこにいた神父と話をする。
目には目を 同じことを知ることで平等になれると思った。「でも、誰にも言えない感情が生まれてしまった」
一花はコウジを訪ねる。そして謝罪 「私がお願いしたことは、コウジをないがしろにしていた」
そして「もう一回だけしたい」 夫は下手 愛情がない
コウジはバス停まで見送ると「その人と一花は合わないんだよ」
作品には登場人物たちの本心として自分自身のことが「わからない」ことを描いている。
その理由は「経験したことがない」からだ。それをしてしまうことの先にあることを想像することはできるが、それは想像でしかない。そこに踏み込むと終わってしまうという思い込み。
コウジは、当初ひどく困惑した一花のお願いも、2度目はすんなり受け入れた。そしてこれ以上続けると彼女が傷つくと思った。
しばらくして来た披露宴の招待状。
結局一花は彼を選んだのだ。その気持ちの奥底まで思い知ることはできない。しかしコウジの気持ちは部屋の寂しい雰囲気に現れている。
彼女は自分自身で答えを出せたのだ。経験して受け入れて、強くなったのだろう。
ただコウジにはまだ、自分を通り過ぎていく彼女へのほのかな思いが言いようのない余韻を作っていた。
二度の失恋。やがてコウジの中から一花への思いが消えていく。だから披露宴にはいかない。そして岬への手紙を書いた。「いつか好きになるかもしれない」
ある日突然コウジを訪ねてきた岬の両親。勝手に上がり込んで「気持ち悪い」
両親のあまりに無礼な言葉と、突き付けられたあの手紙。
人の心 気持ち それは自由で気ままで純粋だ。 それが時に人を傷つけ、時に人に喜びを与える。嘘のない心が見えると、人はそこに惹かれるのだろう。
コウジは岬の言葉の中に嘘がないことを知っていた。むしろコウジ自身には一般常識を提示しながらその場しのぎの言葉を遣う。岬はそんな彼に鋭く突っ込みを入れる。
コウジにとって岬は純粋さそのものだ。
それに気づいたとき、彼は岬の父を殴っていた。初めて「本気」になった。岬の本心に対して本気になった。
「彼女を否定するな。彼女の気持ちを否定するな」
さて、作品のタイトルに続く言葉、それはそれぞれ感じたことをそこに当てはめればいいと思う。
人はみな、常識とか思い込みとか、勝手なルールを持ち出しながら「純粋な気持ち」に蓋をしようとする。蓋をすることでそれ以上考えないことにしたり、行動しなかったりする。
また、逆に「怒る」 経験値を上げようとはしない。その中に留まっていようとする。
私の回答は、
「愛なのに どうしてみんな否定するの?」と当てはめてみた。
でもこの作品、かなりみょーな感じがする設定にもかかわらず、どこかほっこりと温かくなる不思議な作品だった。