「いろいろ詰め込んだ完結編」ジュラシック・ワールド 新たなる支配者 アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)
いろいろ詰め込んだ完結編
2D 字幕版を鑑賞。字幕が戸田奈津子といきなり表示されてゲンナリした。恐れた通り、「〜を?」という日本語にない文章が相変わらず健在なのに萎えまくった。“Hold on tight!” なら「掴まって!」だろうに、「行くわよ!」とは何事か。意訳の範囲を逸脱して誤訳の領域に踏み込んでいる。もうホントにいい加減、引退して欲しいものである。
本シリーズは、1993 年に第1作が作られ、1997 年に第2作、ちょっと開いて 2001 年に第3作、かなり開いて 2015 年に第4作、2018 年に第5作、そして 2022 年に第6作である本作が公開された。スピルバーグが自分で監督したのは最初の2作だけである。上映時間は第3作だけが 90 分台と異様に短かったのを除けば、他は 120 分台で作られていたのに対し、本作は 147 分と別格の長さである。
これだけの尺を要したのは、これまでのシリーズの主要な登場人物をほぼ総動員したためであろう。第1作からのグラント博士、サトラー博士、マルコム博士、第4作からのオーウェンとクレア、第5作からのメイジーなどにそれぞれ見せ場を持たせたためにこの長さになったのだろうと思われた。出て来なかったのは第2作の女性動物学者サラくらいなものであったが、言ってることとやってることが矛盾ばかりでイライラさせられただけだったあんな女は出て来なくて正解だと思ったら、本作の冒頭でクレアが似たような行動をしていたのには苦笑を禁じ得なかった。
これだけの人物が出て来ると、誰が一体主役なのだろうというのが曖昧になり、その分話のまとまりを欠いたような印象になったのは否めない。最初の方でメイジーを隠すような生活を強いていた理由をメイジー本人が全く理解していないのには呆れた。自分がクローンであることを自覚しているなら尚更のことである。クローン人間はどの国でも禁止されている技術であり、世に晒された場合はマスゴミやネットで晒されてまともな一生など絶対に送れなくなる。十分話し合って理解させる時間はあったはずなのに、頭ごなしに叱るだけというのには唖然とするしかなかった。また、そのシーンは最初にかなりの尺を割いて描いてあったのに、それが後半で何も活かされなかったのも脱力であった。
話は壮大なご都合主義とでもいうべきで、ディズニーランドのアトラクションのように全てのエピソードが一過性で後を引かない。ヘリなどの飛行に対してどうやって翼竜の接近を防いでいるのかの説明もなく、そのシステムが電力を一部遮断すれば使えるようになるという理由もワケワカである。そのシステムを制御するコンソールにパスワードも要求されずに入れてしまうというのも何だかなであった。そもそも恐竜との共存とかいうのが噴飯ものであることは、熊が市の郊外に出て来ただけで大騒ぎする現実世界を考えれば明らかであろう。
毎回新種の恐竜が登場するが、今作ではギガノトサウルスや有毛の見たことのない肉食竜などが出て来ており、その分相対的にティラノサウルスの扱いが小さくなっているのが個人的には不満である。それにしても、この 30 年間の CG の進歩のめざましさは驚嘆するばかりで、体表に羽毛などがあるものは元々 CG の苦手とする対象であるが、ほとんど難しさを感じさせないのには非常に感心した。
このシリーズは全て時代設定が公開時のものと同一であり、従って、30 年経てば第1作の出演者は 30 歳ずつ加齢している。グラント、サトラー、マルコム各博士が一人も欠けることなく、それぞれ初期のイメージをあまり損なわずにいてくれたことがまず何よりであった。この先は時間と共に物故者も出ると思われるので、この辺で区切って最終章としたのであろう。いずれの出演者にも惜しみない拍手を送りたい。
音楽は第4作からジョン・ウィリアムスを引き継いだマイケル・ジアッチーノである。非常に質の高い音楽を書く人であるが、惜しむらくはあまり耳に残らない。ジョン・ウィリアムスが冒頭の僅かな小節数でしっかりと聴衆の心を掴むのとはかなり差がある。本作で昔を回想するシーンなどではウィリアムスのフレーズが引用されていたが、ハッとするほど鮮やかに蘇って来たのには今更ながら驚いた。エンドタイトルでも、シリーズ完結ということであればウィリアムスのフレーズをたくさん聞かせて欲しかったが、最後の最後にハープで申し訳程度に出て来ただけだったのは残念だった。
監督は第4作と同じ人で、第5作の凋落ぶりからは見違えるようだった。スター・ウォーズも第8作だけは世界観を揺るがしかねない超絶的な駄作で頭を抱えたが、つくづく監督の人選は重要だと痛感させられた。
(映像5+脚本3+役者4+音楽4+演出5)×4= 84 点。
掴まって!では、直訳すぎるのでは。
行くわよ!(だから捕まれ)って事です。
あのシーン的に行くぞと言われたら、「あぁ飛ばすんだろうなぁ」と誰だって自然と掴みますよ。