劇場公開日 2022年4月1日

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英雄の証明 : 特集

2022年3月25日更新

その男は、悪人か?善人か?――SNSを巧みに使った見事な展開に舌を巻くイランの名匠の最新作

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話題の映画を月会費なしで自宅でいち早く鑑賞できるVODサービス「シネマ映画.com」。3月25日から、アスガー・ファルハディ最新作「英雄の証明」の3日間限定、劇場公開前プレミア上映が開催される。

「別離」「セールスマン」でアカデミー外国語映画賞を2度受賞するなど世界的に高い評価を受けるイランの名匠が、2021年・第74回カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞したヒューマンサスペンス。借金の罪で投獄され、服役している主人公の婚約者が、金貨入りのカバンを拾ったことから、主人公にとって思いもよらない出来事が巻き起こる。このほど、映画.com編集部が本作の見どころを語り合った。

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英雄の証明(2021年製作/127分/G/イラン・フランス合作)

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<あらすじ>

イランの古都シラーズ。ラヒムは借金の罪で投獄され、服役している。そんなある時、婚約者が偶然17枚の金貨を拾う。借金を返済すればその日にでも出所できるラヒムにとって、それはまさに神からの贈り物のように思えた。しかし、罪悪感にさいなまれたラヒムは、金貨を落とし主に返すことを決意する。そのささやかな善行がメディアに報じられると大きな反響を呼び、ラヒムは「正直者の囚人」という美談とともに祭り上げられていく。ところが、 SNSを介して広まったある噂をきっかけに、状況は一変していく。


座談会参加メンバー

駒井尚文(映画.com編集長)、和田隆、荒木理絵、今田カミーユ

■SNSという現代的なモチーフを使いながら、普遍的な物語が紡がれる

和田 現代のSNSというタイムリーな設定を取り上げながら、普遍的な物語を描いていくファルハディ監督の演出に改めて感服させられました。皆さん、いかがでしたか?

駒井編集長 イランのSNS事情にとても興味がわきました。

荒木 SNSによって小さなコミュニティの閉塞感が加速していく例を見た気がしました。人間を自由にするのではなくて、不自由にしてるように感じますね……。

駒井編集長 この映画は、SNS動画の拡散は出てきますが、PCやスマホの画面(スクリーンショット)があまり出てこないところが新鮮でした。スマホ持ってないシニアの人でも話についていける演出だなあと。

今田 現代の映画なのに、昔の映画や寓話のような味わいがありますよね。そもそも金貨を拾って持ち主に返しただけで話題になってしまうとかも。元ネタは実際のエピソードらしいですが。

駒井編集長 そうなんですか! 金貨っていまだに物語を作るにあたって重要なツールなんだなって思った。

今田 監督は金貨については明言していませんが、人の善行が話題になる、といういくつかのニュースから着想を得たそうです。

■刑務所、家族関係などイラン独特の設定が興味深い
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駒井編集長 あと、イランの監獄事情もユニークだなあって思いました。主人公が入所する時、ひとりで行ってましたよね。警官や係官のつきそいもなく。面白いなあって。

荒木 借金返さないだけで訴えられて投獄されていましたからね。その代わり休暇も取れるという、不思議な感覚です。

駒井編集長 そうそう。囚人が休暇でシャバに出られるの衝撃的。

今田 ネタバレにはならないないとは思いますが、主人公が坊主になるのも興味深かったです。

駒井編集長 あれは「反省」や「心機一転」みたいな感じ?

荒木 世界共通で心機一転するときは頭を丸めるのか……

駒井編集長 そう言えば、映画の冒頭の方では「ヒゲ伸ばしたのね!」って婚約者が言ってましたよね。イランでは、髪とかヒゲに、いろいろな意味や縁起があるんでしょうね。

今田 離婚後、息子を刑務所にいる父が引き取っているというシチュエーションにも驚きました。

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■名誉を重んじる国民性、図らずも“英雄”になってしまった主人公

和田 息子が吃音症という設定です。私は、イラン社会の問題を例えているようにも見えました。

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駒井編集長 家族の概念、借金の概念など、明らかに日本と違うので、ちゃんと理解できないながらも興味深く見ていました。イランの文化は他の国と違うけど、テレビの功罪とSNSの功罪は世界共通なんだなってのが強烈でしたよね。

和田 名誉を非常に重んじていますよね。

荒木 テレビで放映されると近所の老人さえも「英雄!」って褒めたたえていましたね。まだテレビが権威を保っていそうです。そして、イランは日本より「コミュニティ内の暗黙のルール」多そうだなぁとも思いました。

今田 主人公の立場が2転3転としていくのが、本当にスリリングで。英雄なんていうものは本当に存在するのか?と考えさせられましたね。人間誰しも良いところも悪いところも併せ持っているものですが、それでも、人は英雄を求めてしまうのですね。

荒木 イランは信用を得ることがとても難しい社会なのかなと思いました。その反面、「信用」の価値がとても大きい。それなのに、この主人公は突然「英雄」になってしまって、その後の代償が、一市民には重すぎましたよね。人には言えないことなんて誰にもあるはずなのに。

■主人公ラヒムを演じた俳優はイランのトップスター

駒井編集長 主人公ラヒムを演じたアミール・ジャディディは、どんな芸歴なのか分かります? 白い歯を見せてニカっと笑うイノセントな笑顔が頭から離れません。

和田 なんとテニスプレイヤーとしても活躍しているそうです!

今田 本作ではさえない感じですが、実物はモデル並みのイケメンです。と宣伝担当者からの情報も得ましたw

駒井編集長 イランの松岡修造w

荒木 この人が悪いことするはずないじゃない……って言いたくなる雰囲気を持っていますよねw

今田 あの風貌で、返せないほどの借金は何に使ったのか気になりますね。

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■登場人物たちの人間らしさも見どころ

和田 借金を返さないことに対してはもちろんなんでしょうが、娘を幸せにできなかったことへの元義父の怒りが強いですね。そんな娘の元夫が英雄扱いされるのが許せないと。

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荒木 わかりやすい「悪者」のような立ち位置の人も出てきますが、それぞれ事情を抱えていて単純な「悪者」ではないところも面白かったです。でも、金借りて返さない人には、そりゃまあ怒るよね……。

今田 イランの家族構成が複雑ではっきり分からなかったのですが、婚約者のお兄さん?も、当初は結婚反対してましたね。主人公がいい人なのか、だらしのない人なのか……世間に流されて英雄になってしまうぼんやりしているキャラクターにしたのも監督の狙いだったのでしょうね。

■イランを代表する古代遺跡のある町が舞台、庶民的な街並みも魅力

今田 あと私はオープニングで映る遺跡のような場所が気になりました。庶民の生活が垣間見られるような街の雰囲気にもワクワクしました。今、観光でイランに行くのはなかなか難しそうですが。

駒井編集長 遺跡みたいな町が舞台でしたよね。いつか行ってみたいですね。

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和田隆 数多くの古代遺跡が現存する南西部の古都シラーズが舞台とありますね。

今田 地理歴史文化など、遠い国の映画から日本との共通点を見つけたり、わからないことをいろいろと推測したりするのも外国映画鑑賞の楽しさと言えますね。

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