「アピチャッポンらしい悠久の時間と陶酔と」MEMORIA メモリア 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
アピチャッポンらしい悠久の時間と陶酔と
アピチャッポンの映画には眠りと陶酔がある。それほどまでに心地よく、なおかつ、その向こうで深淵に繋がっているかのような神秘性を持つと言うべきか。舞台をいつものタイからコロンビアへ移した本作は、耳元で爆発音が鳴るのを感じる主人公の物語。サスペンスか、ミステリーか、超常現象ものか。頭の中をハテナで一杯にしながら、アピチャッポンらしい心地よい時間と空間に身を浸していく。本作を理路整然と言葉で説明することは困難だ。でも我々は頭で考えることに決して固執せず、心で感じることができる。私は本作で太古に刻まれた記憶の声に耳を澄ませたり、他人と対話したり、自然に身を委ねたり、はたまた音響技師が効果音を使って爆音を再現したりする中で、なぜだかふと「映画の本質」に触れたような鮮烈なイメージに貫かれるのを感じた。映画とはつまり、記憶を発見し、再現し、そして共有する作業ではないかと、この作品に包まれながらそう思った。
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