劇場公開日 2023年2月10日

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「999を想起させるロードムービー&ラブストーリー」コンパートメント No.6 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0999を想起させるロードムービー&ラブストーリー

2023年3月12日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

1990年代、ソビエト連邦が崩壊して現在のロシア共和国が誕生して間もない時代のロシアを舞台に、フィンランドからモスクワに留学していた主人公のラウラが、ロシア北部の街・ムルマンスクの郊外にある岩面彫刻であるペトログリフを観に行くため、何日も夜行列車に揺られて旅をするというロードムービー、かつラブストーリーでした。僅か20~30年前の時代設定なのですが、夜行列車はもう少し前の時代の雰囲気で、約1500キロ離れたモスクワ→ムルマンスクを、3~4日掛けて移動します。途中駅のひとつでは、列車が一晩駅に停車するため、ラウラは偶然同じ客室に乗り合わせたロシア人青年・リョーハと、リョーハの知り合いの家まで行って宿泊します。この辺りの雰囲気は、まさに「銀河鉄道999」そのもの。いろんな出会いがあり別れがあり、トラブルも発生する。「999」と違って、本作の車掌さんは当初かなり共産官僚的でサービス精神皆無でしたが、時間が経つにつれて徐々に人懐こさが現れて来たりして、もう「999」の世界を思い出さざるを得ない流れでした。

また特徴的だったのは、殆ど音楽が流れなかったこと。この辺りはゴダイゴやささきいさおの歌う名曲が象徴的だった「999」とは対照的でしたが、音楽がない替わりに、列車の動く音だったり、車のエンジン音だったり、吹雪や荒波と言った自然の音が、いわばBGMとして本作の骨格を創っていて、それがロシアの寒々とした冬の景色や登場人物たちの鬱屈とした心情と見事にマッチしていて、実に見事でした。

さらにラブストーリーとしても、美人の女性大学教授であるイリーナに実質的にフラれたラウラと、粗野で下品で子供っぽくて無教養なリョーハが、数日間の列車の旅と、さらには岩面彫刻・ペトログリフを見に行く過程で心を通わせていくに至るまで紆余曲折とした物語の流れは、非常に上質であり、唸らせる創りでした。
そして何より良かったのは、登場人物たちの表情や態度。心の内を、言葉だけでなく表情や態度で繊細に表しており、変にワザとらしいこともなく、自然とラウラとリョーハの心情の変化が伝わって来て、こちらも心揺さぶられました。
また、時折表現されるコメディチックな演出も、緊張と緩和という意味で大変効果的だったと思います。

ただこんな素晴らしい映画なのですが、残念ながら2022年2月にロシアがウクライナに侵攻し、今でも戦禍が続いています。本作は、フィンランド、ロシア、エストニア、ドイツの4か国の合作ということになっていますが、製作されたのが2021年だったことから、普通に完成したものと思われますが、時期が少しずれていたら、本作の製作は難しかったのではないかと思われます。ご存知の通り、ウクライナ侵攻後、従来中立国の立場にあったフィンランドはNATOへの加盟を申請しましたし、NATOに加盟しているドイツやエストニアは、ロシアと対立関係にあります。一日も早く、こうした作品が共同で製作できる平和が戻ってきて欲しいと願わずにいられません。

最後は少し映画の話から逸れてしまいましたが、本作は今年観た映画の中で一番面白かったので、評価も★5としたいと思います。

鶏