「この愛おしさ、微笑ましさ。旅の歓びが詰まった秀作」コンパートメント No.6 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
この愛おしさ、微笑ましさ。旅の歓びが詰まった秀作
何気なく観たこの映画に思い切り心を奪われた。フィンランド人留学生の女性ラウラは列車に乗りロシアの最北端駅まで向かう。目的は現地にあるヒエログラフを見ること。ただしその列車の旅はひたすら長いもので、しかも彼女が寝泊りする6番個室は、気が滅入るほど無作法なロシア人リョーハと相部屋だ。彼はこれから炭鉱で働くために現地を目指すのだという。2人はまるで水と油であり、旅行好きな人にとってはこういう旅行者と隣り合わせることで全て台無しになるのも「あるある」と頷けることかも。でも本当に面白いことに、共に過ごす時間の長さ、超えていく距離が2人の不理解のギャップを埋め、本作は移りゆく感情をとても繊細かつ微笑ましく紡いでいく。完璧には通じない会話。80年代特有のカセット。ハンディカム。不便な車内、無愛想な車掌。その全てが愛おしく見えてくる不思議。観終えると誰もが同じ思いを抱くはず。「ああ、旅に出たくなった」と。
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