「聖か俗か?嘘か誠か?」ベネデッタ ありのさんの映画レビュー(感想・評価)
聖か俗か?嘘か誠か?
カトリック教会を舞台に同性愛、魔女狩り、拷問、権力闘争を描いており、かなり挑発的な内容の作品になっている。しかも、事実を元にしているという前振りをわざわざクレジットする大胆さで、このあたりに鬼才ヴァ―ホーベンの気骨が伺える。
これまで宗教という物に余りこだわりを見せてこなかった氏が、ここにきてそれを題材にしたというのは少々意外だった。「4番目の男」に若干、聖母のイメージが嗅ぎ取れるが、「トータル・リコール」にしろ「インビジブル」にしろ実存主義の作家という印象を持っていたからである。このあたり、一体どういう心境変化があったのだろうか?
ともあれ、今作もかなりスキャンダラスな内容であることは間違いなく、宗教に狂わされていく人々の姿をシニカルに表しており、いつものヴァ―ホーベンらしさは感じられる作品である。
映画は、キリストの幻視を通して修道院でのし上がっていくベネデッタの姿を、バルトロメアとの愛欲を交えながら描いている。ベネデッタは本物の聖女なのか?それとも只のペテン師なのか?そのあたりの真偽を敢えてぼかしている所が面白い。
例えば、ベネデッタがキリストの復活を再現して見せる所などは理屈では考えられないシーンである。少女時代のベネデッタが倒れたマリア像に押しつぶされそうになるシーンも、普通に考えたら起こりえない現象である。こうしたオカルト的な事象に加え、彼女の周囲には様々な事が偶発的に起こる。したがって、全てを彼女の狂言というふうに片付けられない所がミソで、彼女のミステリアスな存在感にグイグイと引きつけられた。
そして、ヴァーホーベンと言えばエロスとバイオレンスの作家というイメージがある。本作の製作時、齢80を超えていたが、それでもなお衰え知らずといった感じで、刺激的なベッドシーンや残酷な拷問シーンが登場してくる。このあたりの作家性も健在である。
本作で残念だったのは、終盤にかけて作りが若干雑になってしまった点だろうか。バルトロメアの心理変化が省略されてしまったことと、ベネデッタが町の外へ出た理由がよく分からなかった。それまで丁寧な描写に徹していたのに、終盤はひどく無頓着な演出になってしまったことが残念でならない。
また、後半はベネデッタとバルトロメアの愛欲関係を断罪する審問会が見所となるのだが、ここも”ある証拠品”を巡る取り扱いが安易に感じられた。推理物では、もはや使い古されたトリックで、もう少し捻りが欲しい。
キャスト陣では、何と言ってもベネデッタを演じたヴィルジニー・エフィラの堂々たる演技が印象に残った。悪魔に取りつかれように激昂するシーンは、ほとんどホラー映画のような恐ろしさであった。
修道院長を演じたシャーロット・ランプリングは複雑な胸中を深みのある演技で体現し、こちらも貫禄の巧演を見せている。
尚、本作には一つだけ大きなミステリーが残されている。それは終盤でベネデッタが修道院長の耳元でささやいた言葉である。劇中では無音なので聞き取れなくなっているが、果たして彼女はどんな言葉をかけたのだろうか?その後の修道院長の行動を考えると興味が尽きない。そこを探ってみると、本作の味わいは一層増すだろう。