「聖女か狂信者か。宗教の欺瞞を描いたバーフォーベン面目躍如の傑作。」ベネデッタ レントさんの映画レビュー(感想・評価)
聖女か狂信者か。宗教の欺瞞を描いたバーフォーベン面目躍如の傑作。
17世紀のイタリア、腐敗したカトリック教会を舞台に一人の敬虔な修道女ベネデッタに起きた奇跡をめぐる騒動。
娼婦や侍女にまで手を付けている教皇大使、奇跡を自らの出世に利用しようとする教区の司祭、信仰心を持たない修道院長。
信仰心を持つのは末端の人々や下位の修道女ぐらいのもの。その彼らの信仰心を利用して支配してきたのがローマ教会だ。
かつてローマ帝国の国教とされたのを皮切りに、キリスト教は勢いを増して次々と異教徒を排斥し、又は改宗を強制した。その流れは全世界に及び異端者の迫害、虐殺、原住民の強制的改宗又は虐殺を繰り返し、やがて世界一の信者数を獲得するまでに至った。
キリストの教えである汝殺すなかれ、汝姦淫するなかれ。それらの教えは彼らにはなかった。自分たちの権威を保持するために教義は都合のいいように捻じ曲げられてきた。世界一の信者数獲得の裏で多くの血が流されてきたのがキリスト教である。
幼き頃から敬虔なカトリック信者のベネデッタはぺシアの修道院に入れられ、信仰生活を送っていた。
そんな彼女はある日キリストの夢を見る。私の花嫁になれというキリスト。夢だけでなく次第に激しい苦しみにさいなまれた彼女の両手両足にはスティグマータが現れる。
周囲は困惑するが教区の司祭はこの奇跡を出世に利用しようと彼女を修道院長にしてしまう。
果たして彼女に起きた奇跡は事実なのかあるいは虚言によるものか。
監督のバーフォーベンはこの時代にして一人の女性が自分の生きたいように生きようとしたその姿に作家としての創造力を搔き立てられたという。ただでさえ女性の人権がない時代において自分らしく自分の欲望に忠実だったベネデッタ。
彼女に起きた奇跡が事実だったのかあるいは彼女の自作自演だったのか。審判資料からは彼女の真意は推し量れない。
ただ、人権など無きに等しい中世の時代において一人の女性が戦うには奇跡が必要だったのかも知れない。
欺瞞的な宗教、その宗教と結びついた権威主義の下で一人の人間として闘ったベネデッタ。彼女が狂信者だったのかあるいは聖女だったのかは知る由もない。