アネットのレビュー・感想・評価
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悲劇を悲劇として徹底できなかった
ヒロインのアンを演じたマリオン・コティヤールの歌が素晴らしい。この人がエディット・ピアフを演じた映画は残念ながら劇場での鑑賞を逃してしまった。ヘッドフォンを介しての配信の歌は聞く気になれなかったので、結局この人の歌を聞いたのは本作品が初めてだ。これほど上手だとは思いもよらなかった。
ヘンリー役のアダム・ドライバーの歌はコティヤールに比べればかなりの差があるが、ミュージカル映画の歌としてはそれほど悪くなかった。悪態をつくのを売りにしたスタンダップコメディアンの演技もそれなりの迫力があってよかったと思う。
本作品は We love each other so much の歌が繰り返される恋のはじまりから、娘のアネットの誕生、アンとヘンリーのそれぞれの仕事の明暗、格差と嫉妬、不安と怒り、そして恐怖に行き着く。ふたりの情緒の変化が、悲劇へと突き進む位置エネルギーとなるのだ。物語はアンが心配した最悪の展開で進んでしまう。
ヘンリーの性格が齎した性格悲劇であり、アンがヘンリーの本質を見抜くことが出来なかったことが悲劇の原因である。ヘンリーは破滅に突き進んでいく性格で、その根底には不寛容と被害者意識がある。相手がアンでなくても、悲劇に進んだに違いない。
悲劇には劇的に悲しいラストシーンが必要だが、本作品はそれがやや弱い。中途半端なままで映画が終わるから、観客はカタルシスを覚えることができない。ヘンリーが娘を絞め殺したところを看守に射殺されるくらいがちょうどよかった。
悲劇を悲劇として徹底できなかったところが、本作品の完成度を落としていると思う。制作陣が、凄惨なラストシーンにするのを恐れたのかもしれない。ネット社会にありがちな、思い切りの悪さである。あとひと息だったから、凄く残念だ。
世界観に惚れる
前作のホーリーモーターズから9年、待望の新作はミュージカル。監督は映画監督を志す前はミュージシャンになりたかったのもあり、ミュージカル映画はいつか撮ろうと思っていたとのこと。脚本も独特でいいのだが全体の世界観が好みなのでそれだけでも満足できている。今回ミュージカルだったり、赤ちゃんに人形を使っていたり、しかも俳優はミュージカル俳優ではない人に実際に現場で歌ったものを収録しているとのこと。そういった非現実的な要素や作り込みすぎない要素があっても、チープにならないしむしろリアリティがある。さらに一定の緊張感が漂い続けていて何より画やアクションがかっこいい。いかにもフランス人らしい美意識のように感じるが、北野武がフランスで評価をされているように、日本人が持つ美意識、侘び寂びのようなものもどこかに感じる。とにかく好き。
話はベタだったけど、曲とパペットが─
かなり斬新で、正直、笑えました。とはいえ、そう思うまでには、少し時間を要して、最初かなりの取っつきにくさ・・・。アネット登場でその様相はがらりと変わった気がします。なんじゃこのヘンテコなミュージカルチックな作品は─なんて思っていたんですが、ミュージカルを利用しつつもその違和感を大いに利用したり、それでいてかなり大真面目な壮大なミュージカル映画で、違和感きわまりないアネットさえも絵の中に見事に融合して、すっかり美しい映像に魅了されてしまった感じです。楽曲も素晴らしかったように思います。
でもやはり、アネットの存在そのものでかなり魅了され、うならされます。あれを拒絶するというなら、この作品は見ない方がいいと思ったり─。
笑いと紙一重の狂気
レオス・カラックス監督の暴走的な愛の描写はミュージカルでこそ活きるのだと実感した。
ここから物語が始まるのだというワクワクするような冒頭のナンバーからは考えられない、あまりに挑発的で攻撃的な内容に度肝を抜かれる。
毒のある際どいネタで客を笑い死にさせるコメディアンのヘンリーと、彼曰く神聖なオペラの舞台で何度も死を迎えながら観客を魅了する歌姫アン。
これは二人の愛が燃え上がり、やがて壊れていく物語でもある。
「深く愛する二人」とあまりにもストレート過ぎる愛の表現を伝え合う二人。
悪く言えば中身のない愛情表現にも見えるが、それが後の二人の運命を暗示しているようでもある。
シンプルにお互いを尊重し合う仲だった二人だが、結婚生活が始まりアンが妊娠すると徐々に二人の関係に翳りが見えてくる。
夜遊びに興じるヘンリーへの不信感からか、アンは夢で彼が6人の女性から虐待を受けていたと告発される場面を見る。
一方ヘンリーも元々際どいネタで笑いを取るスタイルではあったが、妻を殺してしまったという笑えないジョークのせいで反感を買ってしまう。
この場面は圧巻だった。これは演じるアダム・ドライヴァーの上手さもあるが、観ている方もこれは事実なのではないかと勘ぐってしまう。
どんどん落ち目になっていく自分に対して、妻のアンは人気者であり続ける。それがヘンリーには堪らない。
やがて二人の間にアネットという女の子が誕生するが、どう見ても赤ん坊の姿は人形なのに妙な生々しさがあり、それが不気味であると共に神々しさを感じさせる。
そう、この映画は狂気と紙一重だが、とても荘厳な印象も与えるのだ。
ヘンリーはアンと産まれたばかりのアネットを連れて休暇に出るが、嵐の海でアンは帰らぬ人となってしまう。
酔った勢いで暴風吹き荒れる船上でヘンリーがアンと共にワルツを踊る場面は見所のひとつだが、アンは確かに事故で海に沈んでしまったものの、それはヘンリーに殺意がなかったという証明にはならない。
アンは亡霊となってヘンリーへの復讐を誓う。
アンが亡くなったその直後から、アネットは光に照らされると歌を歌うようになる。
ヘンリーはかつてアンの伴奏者で、彼女に恋い焦がれていた指揮者の男に声をかけ、アネットを歌う赤ん坊として売り出せないかと提案する。
結果的にアネットは見世物として大衆の人気を集めていく。
不思議とアネットの人気に比例してヘンリーも女性たちにモテるようになる。
この辺りに移ろいやすい人間の心が皮肉られているように感じた。
アメリカ人は特にスターと認めた者に対して熱狂的な歓声を送るが、一度期待を裏切ると手の平を返したように罵声を浴びせる。
それは赤ん坊のアネットに対してもだ。
アネットは観客の前で歌えなくなる。彼女は父親が人殺しであることを知っているからだ。
ヘンリーはアンだけでなく、指揮者の男も殺してしまう。彼が自分がアネットの父親だと名乗り出たからだ。
嫉妬心からヘンリーは自滅することになる。
アネットは大勢の観客の前でヘンリーの罪を暴く。
収監されたヘンリーの面会に訪れたアネットが、人形の姿から人間に変わる場面はとても印象的だった。
ヘンリーのアネットに対する愛情は本物だったのだろう。
しかしアネットはヘンリーに愛する者はいないと無情にも言い放つ。
どこでヘンリーは進む道を間違えてしまったのだろうか。
決して万人受けする内容ではないが、個人的にはこの映画の世界観はドンピシャに嵌まった。
しかしレオス・カラックスはどこまでも人を食ったような映画を作る。
冒頭ではこの映画の最中には呼吸することすら禁じるような文句を垂れる。
しかしエンドロールでは観客に向かって、感謝の言葉を役者たちに喋らせる。
見知らぬ人には近付かないように注意しながら、でも友達がいないなら見知らぬ人に声をかけてこの映画を宣伝するようにお願いする。
『ホーリーモーターズ』のラストも特徴的だったが、この映画のラストもそれに負けず劣らず個性的だ。
悪くはないが良くもない。カラックスは致命的にミュージカルが合わない...
悪くはないが良くもない。カラックスは致命的にミュージカルが合わないのではないか。彼にしか撮れないキラーカットが少ないのは歌に拍子を合わせないといけないから。まーやはり世界最高級「汚れた血」とどうしても比較してしまう・・・。
とても気に入りました。
面白かったです。
とても気に入りました。
内容は明るいものではありません。
少なくともジャンル映画でもありません。
ずっと宙に浮いた、着地するところが無い感覚で観ていました。
映像が美しかったです。
音楽も素晴らしかったです。
思いの外、テンポの良い作品と感じました。
省略的に、象徴的に、劇中で表現され、また印象に残る形で観ることが出来ました。
ラストの横たわった人形について、共に観た人に聞いたところ、「あれはアネットが操り人形であることから解放された象徴なんだと思う」と言っていて、
たしかに、その解釈は正しいように思いました。
そう思うと、タイトルが「アネット」であること、また最後はほんの僅かでも、幸せなところがあったのかもしれない、と思う心持ちになりました。
映画が気に入ったら薦めてね、みたいなエンドクレジットカードはちょっと面白かったです。
ど、どう薦めんねん??と思いつつも、自分としては気に入ったので、このレビューを観た「見ず知らずの人」にオススメしたいと思います。
回転灯籠
ベルリオーズのような
人類史上最凶のミュージカル
「ウエスト・サイド・ストーリー」よりやや上手!
アダム・ドライバー、かっこいいのに嫌な男だなあ。『ハウス・オブ・グッチ』でも嫌な男やってたなあ。家父長制の権化みたいな役を今後やっていくのか…。でも、素晴らしいキャリアの重ね方だと思う。
絶対だめですけど、今作をファスト映画で5分にまとめるなら、申し訳ないけどオープニングの5分をそのまま使ってほしい。とにかく何かが起こる予感に満ち溢れるオープニングシークエンス。音楽も良い。『ラ・ラ・ランド』くらい良かった。
ところどころの繋ぎが意味が分からないんだけど、だからこそ物語の牽引力がすごい。唐突にいろいろと起こっていく。なぜアネットに人気が出てるのかもよくわからない。そもそも人形なのもよく分からない。ラストシーンで人形を超える結末があって…とはいえ、出産シーンの独特の気持ち悪さといいもうね。癖がすごいんじゃ…。
とはいえ、スタンドアップコメディーの内容が日本人だからか面白くなかったのが致命的。ジョーカーの方がその点では笑えたかな。あえてかもしれないけど。
波のシーンも自宅の水を使ったシーンも印象的だった。
「愛が、たぎる。」良いキャッチコピーですね。
レオス・カラックス監督のミュージカル
角川シネマ有楽町にて鑑賞。
レオス・カラックス監督にしては「ミニシアター感」が消えて、「大ハリウッド的な雰囲気」を感じるロサンゼルスを舞台にしたミュージカル大作。
フランス語はカラックス監督がスタッフと話す程度で殆ど皆無。全編にわたって英語のミュージカルとなっている。
カラックス監督作品は全て観ているが、やはりジュリエット・ビノシュと作り上げた初期作品を超える映画は難しいか……。
物語は、カラックス監督作にしては分かり易く、ピン芸人(アダム・ドライバー)が人気オペラ女性歌手(マリオン・コティヤール)と恋に落ちて、赤ん坊が生まれる。この赤ん坊がアネット。
そして、いろんな出来事が起こるが、物語はカラックス監督作とは思えないほど「スッ…」と入ってくる。
だが、これが面白いかと言うのは、話が別。
個人的には合わなかった。
何が面白くなかったのかは、日本公開されたばかりなので詳細記載するのは割愛するが、あの『汚れた血』で「ジュリエット・ビノシュが両手をひろげて走るシーンを見て感動したようなところ」が本作には皆無。
アネットが、人形から人間になるのは表現上のどういう意図があったのかは不明。
エンドロール後に、大勢のキャストによって「この映画を面白いと思ったら、知人や他人にも勧めてね…」みたいな歌が歌われたが、個人的には「悪くはないがオススメは出来ない」気がした。
贖罪
すごく面白かった。グランドシネマサンシャインのBESTIAで鑑賞。音も良くスクリーンも大きく色彩も美しくて最高。ミニシアターでみるのとは印象が変わりそう。
オープニングから痺れる。
アダムドライバーの身体性が素晴らしい。
今まで傷つけてきた女性への恐れと贖罪かな。Me tooやキャンセルカルチャーを経て、昔を振り返ると後悔することもあるよね。自らの暴力性、嫉妬、恐れ。ラストのデュエットのアダムドライバーはカラックスに似せてるよね?
終映後の舞台挨拶でカラックスがドニラヴァンとアダムドライバーは少し猿に似ていて好きだと言っていて通訳が気を遣って訳していた。
カラックスは気難しいイメージだったけど、少しシャイではあるもののだいぶ丸くなってそうだった。撮りたいと思う人はなかなか見つからないらしい。マリオンコーティヤールはピンと来なかったけど実際会ってみたらよかったと言ってて、タイプじゃなさそうだもんねと思った。カラックスでも資金集めに8年かかるのか。カラックスがお〜いお茶飲んでいた。
子どもがマリオネットで驚いた。生まれたときから。なんとなく受け入れられるような流れや生身の子どもとの入れ替わりの演出も面白いなあと。
歌劇の中で織り成す、レオス・カラックス的カオス!
息すらも止めて、ご覧ください
ホーリー・モーターズの時に見たナスティアがすっかり大人に。
カテリーナ・ゴルベワの憂いのある瞳にそっくりだった。
深淵を覗いたコメディアンが転落していく様子を、息を止め目撃していた観客の私たちもまた転落していくのではないかと不安になる映画だった。
アネットの人形が少し不気味でシュヴァンクマイエルの世界観に似ている。
日本にも人形と人教師を探しに来たようだけど、四谷シモンさんの人形で見てみたかった。
操り人形だったアネットが人間になる時、別れがやってくる。
スパークスの音楽もカラックスの映像もカッコよくて、息どころか瞬きすらも忘れてしまう。
晴天より曇天が心地よく感じる人にはとてもおすすめの作品
映画が気に入ったので見知らぬあなたへ勧めます。
追記
8/20(土) スパークス来日記念 舞台挨拶付きアネット再上映を観てきました。
レオスの演技指導は特になく自由に演じたことや、全て新作で行く予定がレオスの提案で過去作も使用したこと等質問に丁寧に和かに話してくれました。
過去に二度映画音楽の話が頓挫していたので、今回映画として完成し、素晴らしい作品に仕上がっていることにとても満足しているそう。
そして次のミュージカル映画の音楽を制作中とのこと。
またいつかカラックスとコラボをしてほしい。
昨夜ソニマニで遅くまでライブをしていたのに今日3回も挨拶登壇。そして明日大阪でライブ。そしてまた東京に戻って単独ライブ。凄い。
4/21にユーロスペースにてBlu-ray先行発売で購入した
何度見ても良い
でも、もう少し早く発売日して欲しかった
スパークスの楽曲を通過して今描かれるレオス・カラックス自身の半生に重なるもの
さぁ、映画が始まる。悔恨の念に囚われながら、ネタにするしかない孤独な生涯をそれでも生きる。オペラの象徴する死に魅せられたスタンダップコメディアンにとって、子供の誕生というライフイベントが象徴する生はあまりにリアルすぎて…誰も愛せない深淵。
原案・音楽スパークス × 監督レオス・カラックス(『ホーリー・モーターズ』) × 主演アダム・ドライバー = これは只者じゃないという期待に違わぬユニーク/クセモノな作品だった。抜きん出た才能たちによる化学反応が楽しくも、少し眠くもなった個性の塊。でも語弊を恐れずに言ってしまえば、本作も結局のところレオス・カラックス監督の作品でしかないのだ!そしてスパークスもそれを見込んで、他の誰でもないカラックス監督にこの企画を持ち込んだに違いない。
美しく大胆、そして曖昧。表現者アーティスト同士の夫婦は、格差やメディアに煽られ叩かれたりと何かと大変。子供ができてからは搾取するステージパパ毒親?そして、映画という本来皆に夢や希望を与えることができるはずのもので明るみになる暴力や強要にも触れる。他にもマリオン・コティヤール、サイモン・ヘルバーグと音楽的素地のある魅力的なキャスト。日本からは古舘寛治と水原希子が参戦。
映画は終わる。続けて音楽大好きエドガー・ライト監督による『スパークス・ブラザーズ』の日本公開も控えていて、やっとここ日本でも日の目の当たりそうなスパークス元年にようこそ。
P.S. レオス・カラックス監督登壇による舞台挨拶に行ってきた。今回の映画館サイドは完璧にやらかしていていたが、『汚れた血』『ポンヌフの恋人』と大好きな作品を生み出してくれた監督を生で見られてよかった。
♪So May We Start
実験的ミュージカルとファンタジー
簡単にあらすじを説明できる物語が単純明快で、断続的に切り替わる場面が忙しなく、スケールのデカい演出描写に驚きながらもレオス・カラックスの腕が鈍ったか、スパークスの音楽にハマれたらコレ幸い。
前作でも監督本人が序盤に登場する『ホーリー・モーターズ』にミュージカル場面があった記憶が薄らと、9年?振りになるレオス・カラックスの新作は何故にミュージカルであったのか、アダム・ドライバーとライアン・ゴズリングの歌声は同等に"ロック・オペラ"と銘打ったロックンロール色は希薄で、娘はピノキオの如く木製人形の違和感から生身になり、存在自体の違和感と理解困難でもある複雑性はレオス・カラックスらしい??
本作を集大成の位置づけにはせず、これを機に間隔を空けずに映画を撮ってくれたら、待望の新作になる本作では満足出来なかった。
140分の狂気
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