劇場公開日 2022年4月1日

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「父親からZ世代の娘へ捧げる生歌」アネット かなり悪いオヤジさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0父親からZ世代の娘へ捧げる生歌

2023年4月25日
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70年代に活躍したおっさんバンドスパークスからの持ち込み企画だとか、格差婚をテーマにしたスタア誕生へのオマージュだとかいろいろ言われているけれど、色眼鏡をはずして素直に本ミュージカルを見れば、実娘ナースチャとその父親レオス・カラックスの関係に言及した映画であると、すぐにお分かりいただけるだろう。

前作『ホーリー・モーターズ』のミュージカル・パートが意外にも好評だったせいなのかは分からないが、ノア・バームバックの『マリッジ・ストーリー』(こちらも格差離婚がテーマ!)で美声を披露したアダム・ドライバー、そして(口パクだと思ったらすべて生歌だった)マリオン・コティヤールが、スタンダップ・コメディアンヘンリー&オペラ人気歌手アンの夫婦役でキャスティングされている。

映画冒頭のブレヒト的イリュージョンシーンの中で親子揃って仲良くカメオ出演していたナースチャの美しい顔立ちに異国情緒を覚えた私がすかさずググってみると.....なんと母親は『ポーラX』に大抜てきされたカテリーナ・ゴルベワというロシア人女優であることが判明。数本の映画に出演した後、44歳という若さでこの世を去っている。直前うつ病に苦しんでいたことは事実のようだが、いまだ死因は不明のままだ。

(本作のヘンリーとアンの関係を逆さまにしたような)カラックスとの格差に悩んだ末の◯◯だったなどと噂されてはいるが、真実のほどは謎。今まで目にいれても痛くないほどに可愛がっていた娘から「パパはママを殺した。そして娘の私を見せ物にしている。愛しているなんて気安く言わないで!」なんて悲しいことを言われたら、ショックで夜も眠れなくなってしまうのではないか。父親の愛情を無条件に受け入れマリオネット?のように愛らしかった娘が、突如なして変わってしまったのか、と。

SEX中しかもマリオンのお股にアダムが顔を埋めながらのクンニ中、あるいは産婦人科医に扮した古舘寛治!が出産間近のマリオンのお股をのぞきこみながら、あるいはマリオンの背泳ぎからのトイレで排尿中...あり得ない姿勢で役者たちは、同時録音の生歌をムリくり歌わされたという。アンのオペラ・コンサートはもちろん、ヘンリーの“神の類人猿”ライブ、そして前作『ホーリー・モーターズ』における路上パフォーマンスも同様に、最近のカラックスはやたらと“生”に拘っている。

内輪話ゆえの“照れ”をミュージカルというオブラートにくるんだ上での“生”演出は、「息すら止めてご覧下さい」という冒頭の辛口コーション同様、今時の観客に対する監督カラックスの不信感のあらわれではないだろうか。リドリー・スコットは「ミレニアルズは携帯電話で教えてもらわない限り、何かを教えてもらうことを望んでいないのです」という(自棄糞ぎみの)コメントを残していたが、映画という古臭い記録媒体ではもはや届きにくい父親の生メッセージをZ世代の娘に伝えようとした、ささやかな試みだったのかもしれない。

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かなり悪いオヤジ