劇場公開日 2022年4月1日

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「刺激に満ちているけど、アネットの表現を受け容れられるかどうかで評価が分かれそうな一作。」アネット yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0刺激に満ちているけど、アネットの表現を受け容れられるかどうかで評価が分かれそうな一作。

2022年5月16日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

レオス・カラックス監督作品を劇場で鑑賞する体験は久しぶりでした。カラックス監督としては、確か初めてとなる全編英語、かつミュージカル映画ということで、予告編の段階から期待に胸をときめかせつつ、果たしてどんな映画になるんだろう…、という心配も少しありました。

オープニング早々のミュージカルシーンは、予告編で見たとおりの力強さ、かっこよさ、そして荒々しくも美しさに満ちていて、実に素晴らしいと感じました(カラックス本人も娘とともに登場。また演奏しているミュージシャンは本作の音楽を担当したバンド、スパークス)。そこから中盤まではおおよそ予告から予想できる展開となるのですが、中盤以降は大きく方向性が変化します。

物語の分岐点となり、本作のイメージとしても使われている嵐のダンスシーンは、美しくも演劇的であるため、心象風景を映像としているのかと思ったら、本当に嵐のまっただ中のダンスだったとは!カラックス監督の、観念的なようで実はものすごく具体的な状況を美麗に描く映像感覚が、まさに怒濤の勢いで迫ってくる場面でした。

映像は緑や青が印象的に使用されており、それぞれが「生」や「死」を画面全体で表象しています。また物語全体は聖書や寓話の引用に満ちていて(原案は音楽担当のスパークスによるアルバム)、さらに映画を俯瞰的(メタ的)に見る視座も含まれています(ラストのメッセージははあからさま過ぎて笑うけど)。

一回の鑑賞では容易に全貌を掴ませない重層的な魅力に満ちた本作は、さすがレオックス監督作品です。

yui