劇場公開日 2022年4月1日

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「【甘美な愛が、”成功格差”により崩壊して行く過程を描いた唯一無二の独創的な、ダークファンタジーミュージカル。幼きパペットの表情が切なくて・・。】」アネット NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0【甘美な愛が、”成功格差”により崩壊して行く過程を描いた唯一無二の独創的な、ダークファンタジーミュージカル。幼きパペットの表情が切なくて・・。】

2022年4月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

知的

難しい

- 冒頭から、印象的である。キャリア半世紀の兄弟ロックバンド「スパークス」の演奏シーンから始まり、そのままコメディアンのヘンリー(アダム・ドライバー)と国際的オペラ歌手アン(マリオン・コティヤール)が、バイクと車で夜の街に走り去る。ついでに、観客には、"劇中は息をしないで"と告げられる・・。-

◆感想<Caution! 内容に触れています。>

・今作品は撮影現場で役者がライブで歌ったというだけあり、大スクリーンで観ると役柄の思いが深く伝わって来る様に感じた。台詞よりも歌の力だろうか・・。
ー ご存じの通りミュージカル映画では、先に音を収録し、演技を合わせるのが一般的である。-

・全編の台詞がほぼ歌であるが、曲調はロックだったり、ポップであったり、オペラであったり。
- 音楽担当の「スパークス」の力と役者の歌の力を感じる。アダム・ドライバーは「マリッジ・ストーリー」で美声を披露しているし、マリオン・コティヤールは「エディットピアフ 愛の讃歌」で歌の上手さはお墨付きである。(と、思い込んでいたらエディットピアフの音源を使用していたと分かった。けれど、マリオン・コティヤールは物凄いヴォイス・トレーニングをしたんだよね。役者魂を感じるよね。)
 今作でも、アダム・ドライバーは天鵞絨のようなテノールを、マリオン・コティヤールはオペラシーンで、美しきソプラノを聞かせてくれる・・。-

・二人はベッドシーンでも、出産シーンでも歌い続ける。
- 凄いなあ。大変だっただろうなあ・・。ついでに産婦人科医は古舘寛治である。ビックリ!-

・ヘンリーのコメディアンとして、絶頂期の舞台での観客との韻を踏んだような、楽しき遣り取りも見事だし、マリオン・コティヤールに至ってはもう・・、ディーバである・・。
ー が、舞台での失敗、パワハラを告発されてヘンリーの人気は失墜、一方、アンは順調にキャリアを積むが、ヘンリーの嫉妬、疑念から二人の関係は悪化し、修復するために幼子と旅に出るが・・。-

・二人の子供のアネットがパペットである事も効果的である。
- 二人の愛が、崩壊し、嵐の海にアンが落ちた後、島に着いたアネットとヘンリー。月光に照らされたアネットが歌い出す幻想的なシーン。
 そして、父ヘンリーが犯した二つの罪を、哀し気な表情で見ている。-

・アンを愛していたピアノ伴奏者で、その後指揮者になった男(サイモン・ヘルバーグ)は彼女の死に疑念を抱き、ヘンリーの家を訪れるが・・。
ー ヘンリーの常軌は逸脱していた・・。-

<光が当たると、歌い出すベイビー・アネットのラストショーのシーンで、ベイビー・アネットが涙を流しながら大観衆の前で言った言葉。
 そして、獄に繋がれたヘンリーを訪れた成長したアネットは、もはやパペットではなく冷たき言葉を父に言い、獄を去る。
 今作は、唯一無二の独創的な、ダークファンタジーミュージカルである。>

NOBU