劇場公開日 2021年7月10日

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東京クルドのレビュー・感想・評価

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4.5「法律が正しいの?」

2021年7月12日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

難民という存在が「招かれざる客」であることは、万国共通だと思う。
しかし、少しでも難民の資格のある人を強制送還することは、人道上許されることではないし、日本においても「難民条約」が発効してから、既に40年ほど経つようだ。

そして、まさにこの映画のテーマであるが、難民も生きていくために、難民申請中に“働かざるを得ない”ことは、当たり前の現実である。
2010年から2018年まで、「難民申請から6ヶ月経つと、就労できる在留資格が一律で得られる」制度を悪用する“偽装難民”が多かったのかもしれない。だとすれば、就労を禁じる法務省の方針も理由は分かるのだ。
しかし、“本当の難民”のことを考慮すれば、あってはならない制度設計である。

この映画の一番価値のある点は、「では具体的に、難民ってどういう人たちなの?」という疑問を、2015年から始まる取材で、映像として見せてくれたことだと思う。
一つのケーススタディに過ぎないとはいえ、オザンとラマザンという2人の若者を扱っているだけでなく、その周辺の家族・親族のことも映されているので、情報量は多い。

この2人は、日本で子供の頃から義務教育を受けており、日本語会話は完璧で、「難民」を代表しているとは必ずしも言えない。
しかし、そんな“半分日本人”の2人でも、「必要とされていない。自分は虫よりも価値が低い」(オザン)という、絶望的な閉塞感を抱かざるを得ない現実を映し出す。
一般の難民に対してなら、シンパシーを持たない日本人であっても、幼少期から日本で育った難民が、まともな扱いを受けないのを見れば、心情的に苦しくなるだろう。
その意味で本作は、訴求力の強いテーマを扱っていると言える。

後半には、オザンと「入管」とのやりとりの音声の“隠し録り”という、衝撃の映像が出てくる。
終映後のトークによると、監督はオザンおよびその両親に、何度も同意を得ているという。
法務省がどういう対応するかは分からないが、オザンにとって不利益よりも、利益の方が大きいと監督は判断したそうだ。
オザンとしても、どのみち事態が好転しないのだから同じだという、あきらめがあるのかもしれない。

よく理解できなかったのは、「ビザ」の話だ。
「特定活動ビザ」の保有者は、要件を満たす場合、難民であっても「就労ビザ」への在留資格変更申請が可能らしい。
映画には映されていないが、通訳をあきらめて、「埼玉自動車大学校」を卒業したラマザンは、何らかの「ビザ」がおりて、現在就職活動中とのことである。
抜本的な解決ではないが、“本当の難民”に対する、当然の措置であろう。

2人の就職問題だけではなく、本作品は、一般的な「入管行政」の問題点にも、きちんと尺を割いている。
期限を定めない「拘禁」や、適切な「医療からの遮断」、長期にわたる「仮放免」というあいまいな措置の継続は、日本の難民認定率の低さと並んで、人道上の大問題だ。
2007年から、「入管」施設において17人の死者を出し、うち5人が自殺であったという。
また、数ヶ月に1回の入管への出頭は、失踪を把握するためにやむを得ない措置だと思うが、そのやり方は犯罪者でもないのに、きわめて屈辱的だ。
「入管」による、制度の非人道的で恣意的な運用は、許されることではない。

密着取材による難民問題の一つの事例を中心に据えながらも、それだけでなく、「入管行政」の問題点まで、広く網羅する本作品は、タイムリーな素晴らしいドキュメンタリーである。

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Imperator