「旧態依然の女性差別」グレート・インディアン・キッチン 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
旧態依然の女性差別
驚いた。これは現在の話なのか。
序盤を鑑賞した限りでは、50年前のインドと見紛うばかりだ。繰り返される家事の意外なほどのハードワークと男たちの非協力。労働に見合う対価などは当然のように何もなく、自由な時間もない。ほぼ奴隷である。加えて、毎夜のように強いられる不愉快なだけのセックス。もはや奴隷以下だ。
途中でスマホが登場したので、やっぱり現在の話なのだと了解したが、IT国家として発展を遂げたインドでまだこんな旧態依然の差別が罷り通っていることに、改めて驚いてしまった。
インドは仏教発祥の地だが、仏教徒は殆どおらず、大方はヒンドゥー教徒だ。バラモン教の流れなので、カースト制度が生きている。世界史の授業で習ったバラモン、クシャトリヤ、バイシャ、シュードラ、それにアンタッチャブルというカーストが、今でも厳然と存在するのだ。
これまで観たインド映画「囚人ディリ」「WAR ウォー!!」「サーホー」「シークレット・スーパースター」「バーフバリ 王の凱旋」のどれにも、カーストを感じさせるシーンはなかったと思う。当方が意識しなかっただけなのかもしれないが。
本作品のように、あからさまに女性が差別され、奴隷のように酷使され、生理が忌み嫌われるようなシーンのある映画は初めて観た。それらのシーンが実際の状況に即しているのであれば、ヒンドゥー教が極めて女性蔑視の強い宗教であるということになる。こういう作品が製作されるようになったのは、女性の人権に関わる問題意識が広まったということなのだろう。
信教の自由があるから、ヒンドゥー教そのものを非難するのは語弊がある。国連人権理事会はインドに対し、宗教とは無関係な切り口で、女性差別を是正するように求める必要がある。そしてインド政府は、虐待される状況から女性が逃げ出すための受け入れ策を講じなければならない。虐待する主体が家族だという点が解決を阻む最も困難な事情だが、シェルターのようなものがあれば、そこに逃げ込むことで生命や身体の安全が守られる。
ヒンドゥー教徒の多いインドでも、憲法には人権が謳われている。子供たちには、いの一番に人権教育を施さねばならない。女性が差別と虐待に甘んじなければならない義務はないのだ。解決はそこからだと思う。このことは日本も同じである。子供に人権の意識があれば、他人をいじめたりしないはずだ。