「できないと思うこと」オーストリアからオーストラリアへ ふたりの自転車大冒険 supersilentさんの映画レビュー(感想・評価)
できないと思うこと
イスラム過激派やタリバンが支配するパキスタン。戦争が始まる前のロシア。軍事政権下のミャンマー。普通に旅行するだけでも何が起こるかわからない地域を自転車で横断する。酸素の薄い高地から赤熱の砂漠や荒野まで越える旅。簡単に想像するだけで命の危険と隣り合わせであることは明らか。
「できない」と思えばそれまでのこと。「できるかもしれない」そう考えたからこそ全ては始まった。
映画の終盤、とっくに限界を越えたドミニクが、全て失敗だと嘆き、もうやめると言いながらそれでも自転車に乗り走り出す。先に走っていたアンディは黙ってその再会を受け入れる。言葉はなくとも通じ合う2人と美しい風景がドローン映像で映し出される。この映画のハイライトだ。
「どんなに行き詰まろうとも解決法があることを学んだ。止めるのも続けるのも結局は本人次第。」映画の終わり、ドミニクはこんな言葉で締めた。
人生は旅だという言葉をよく聞くが、自分の世界に引きこもり、安全な場所で死ぬのを待っているような人生を送るのも、未知の世界に飛び出して、死ぬような思いをしながら生きる喜びを味わい尽くすのも、全ては自分で決めていること。死んでしまってはどうしようもないんだけれど、死んだような目をして安全な場所で生きる自分には目が覚める思いをした素敵な映画だった。
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