劇場公開日 2021年11月19日

「冒頭からラストまで一気呵成に見せてしまう」囚人ディリ 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0冒頭からラストまで一気呵成に見せてしまう

2021年11月25日
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鑑賞方法:映画館

 インドは中国と同じように公務員が腐敗している。本作品の警察官の台詞には笑えた。警察官にとって大事なのはまず保身、次に金品の獲得、その次に無事に勤務時間を終えること、最後に平穏な警察官人生を終えることだ。そういう思惑がダダ漏れの会話をする。
 警察官の仕事は庶民を取り締まることで、庶民を守ることではないようだ。この点については日本の警察官も同じである。本来の警察官の職務は、国民の生命、身体、財産を守ることを第一義とするのだが、それらを脅かすのもまた国民であるというところに警察官の職務の難しさがある。勢い、法に基づいて脅かす人間を取り締まれば自動的に守ることになるという仕事のしかたになる。しかし行き過ぎれば人権侵害となるが、警察官は人権侵害よりも取り締まりを優先する傾向にある。

 本作品は日本人から見れば似たような顔の人たちばかりが出ていて、誰がどんな立場で、誰が誰のスパイなのだか、最初はよくわからない。善玉と悪玉の区別も容易ではない。演出はヒゲや髪型や服装などで特徴づけているので、観ていると次第に物語の全体像が解ってくる。
 インドの悪党は銃を持っていないようだ。日本のヤクザが拳銃を持っているのとは大違いである。日本よりずっと銃規制が厳重だと思われる。本作品でも持っているのは警察官だけだ。その代わり、麻薬の流通は半端ではない。

 主人公ディリの不死身で超人的な戦いぶりもいいのだが、それよりも新しく赴任したといって警察署にやってくるナポレオンという名前のずんぐりむっくりの警官の活躍がリアルで見応えがある。活躍と書いたが、活躍しているのかどうかよく解らない。迷いや怯えや怒りのある人間的なところがまたいい。
 物語はとてもスピーディで一晩のうちに数箇所で様々なことが起きる。それぞれがリンクしていて、スマホの通信状態に左右されたり、学生たちが逃げ出そうとしたり勇気を出したりと、変わっていくさまも面白い。最も平和な孤児院の場面からはじまって、徐々に戦闘的になって、ラストはあっと驚く戦闘場面になる。そう言えばこの伏線もあったと思い出す。

 インド映画につきものの歌と踊りは封印され、ある場所で流される大音量の音楽だけがインド映画の片鱗を残している。冒頭からラストまで一気呵成に見せてしまうスキのない作品である。こういうインド映画もいい。

耶馬英彦