「喋りすぎるヒーロー、描ききれない悪役」Ultraman: Rising えどやんさんの映画レビュー(感想・評価)
喋りすぎるヒーロー、描ききれない悪役
ウルトラマンの同人作品として見れば、十分に価値のある一作だ。まず、ウルトラマンの見た目や技など、原作と少しずつ異なる点が多いが、それは必ずしも欠点ではなく、独自の世界観を作るための工夫として機能している。もっとも、怪獣などの要素はオリジナルというより、既存のウルトラマンのネタをうまく活用している印象だ。
この作品は「日本的なウルトラマン」よりも「アメリカ的なスーパーヒーロー」に寄っている。変身シーン自体は存在するものの、変身アイテムが登場しない点が特徴的だ。自分の拠点を持ち、単独で戦うヒーロー像は洋画的な雰囲気を感じさせ、新鮮さがある。
印象的だったのは、親子で放つ光線のシーンだ。ウルトラマンらしい象徴的な瞬間であり、感情のピークとして強く心に残る。さらに、主人公の家庭描写も巧みだ。父と主人公は巨人ファン、母は阪神ファンと微妙に趣味がずれているが、それが逆に良いバランスとなり、健康で仲の良い家族として表現されている。この家庭の調和は、ウルトラマンが戦闘で見せる行動や技の調和とも呼応しており、キャラクターの内面や行動の根拠として自然に機能していた。
一方で、敵側――地球防衛隊KDFやその司令官の描き方には大きな問題がある。子育てやウルトラマン、戦闘描写と家庭描写の三立を描くことに時間をかけすぎたため、悪役の行動理念や人物像が十分に描かれず、感情移入のしどころが散漫になってしまった。その結果、ウルトラマンと悪役の戦い自体が意味を持ちにくく、場合によっては茶番のように見えてしまう。最終局面で司令官が自爆システムを起動する行為も、動機づけが薄いため説得力に欠け、物語全体の整合性を損ねていた。
さらに気になったのは、ウルトラマン自身が変身後に喋りすぎた点だ。戦闘中も長く台詞を続け、言葉で説明しすぎる姿にはやや冗長さを感じた。未熟さや人間的な一面を描きたかった意図は理解できるが、あまりに人間くさくしてしまうと、本来の「強く、寡黙に立ち向かうヒーロー像」が崩れてしまう。そこはウルトラマンという存在の“神秘性”を保つためにも、もう少し抑えた方が良かったと思う。
総じて、新鮮な試みは感じられるものの、脚本の動機づけ、キャラクターの言動、そしてウルトラマン像の解釈が噛み合わず、評価が分かれる作品である。
