劇場公開日 2021年9月10日

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「【プーアール茶】」ムーンライト・シャドウ ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0【プーアール茶】

2021年9月11日
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昔、僕が付き合っていた女性の、その時の彼氏が、交通事故で亡くなった。

彼女は相当憔悴していた。
一体どうなるんだろうと心配したりしたが、何年かして、彼女は教師になって、更にしばらくして、結婚もして、子供も出来た。

僕は、この間に、吉本ばなな作品「キッチン」に収められている「ムーンライト・シャドウ」を読んで、彼女に”さつき”を重ねることになる。

原作は、静かで物悲しいしが、不思議で力強くもある。
そして、柊がちょっと…変だったのも印象的だった。

唐突に現れる”うらら”は象徴的な存在なのだと思った。

こうした悲しい別れを共有するような存在で、どこかで愛する人を探し求めてしまう。

ところで、僕は、この原作を読んで、プーアール茶なる中国茶を初めて知った。

ジョギング中に休憩しているさつきと、うららが川辺で出会う場面で出てくる。

ちょっと癖のあるコクの強いお茶で、発酵した何十年ものというランキングもある。

丸いお餅状に固めた茶葉を削ってお湯に入れて飲むが、当時、中国本土の茶葉は汚いので、一煎目は捨てるように教えてもらった。

映画は、少し手は加わっているが、原作の淡々としたリズムを概ね踏襲しているように感じる。

原作を読んだ時に感じた胸が張り裂けるような感覚は、同様に映画を観た人に委ねるような演出なのかもしれない。

過度な演出は避け、観る側の想像力に委ねるような感じだ。

キャスティングは小松菜奈さんをはじめ、とても良いように思う。

だが、原作を読んだことがあるという前提で考えても、もう少し、等を失った喪失感や悲しさに演出は欲しかったように思う。
なぜだろうか。
自分でも合理的に説明できない。

プーアール茶だって、飲んだことのない人は、名前を聞いただけで味など分かるはずもない。

そんなところだ。

反対に、うららは謎で象徴的な存在でも良かったと思う。

ただ、前に進もうとする場面は、僕の昔の彼女のことが思い出されて、やっぱり胸が苦しくなる。

それに、人は、”死”ではなくても、多くの別れを経験し、それを受け入れ、なんとか生きてると考えると、きっと、みんなに重なるところはあるのだろうと思う。

そんなことも考えた。

まあ、ちょっと惜しい作品の感じだった。

ワンコ