劇場公開日 2021年10月8日

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「底流にあるのは正統派の西部劇」キャッシュトラック アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5底流にあるのは正統派の西部劇

2021年10月8日
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鑑賞方法:映画館

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字幕版を鑑賞。ガイ・リッチー監督がジェイソン・ステイサムと組んだアクション映画というので期待して観に行った。十分に報われた思いがした。原題は Wrath of Man(男の怒り)でこちらの方が内容には近いと思った。現金輸送を業務とする警備会社を舞台とした強奪事件が物語の根幹を成しているが、Cash track という英語はなく、Armored car とか Cash transport car と言うのが一般的である。

2004 年のフランス映画「ブルー・レクイエム」のリメイクだそうだが、オリジナル版は未見である。予備知識など一切なくても楽しめる作品である。アウトレイジのような雰囲気であり、一見ギャング映画のように思えるが、実は昔よく見た西部劇を彷彿とさせる復讐劇である。現代的な道具立てで遂行される犯行は非常に緻密な計画に従っていて、警察の動きまで見透かしたような行動は、頭の悪いマフィアとかには到底無理なプロジェクトであると思わせられる。犯人像が明かされるとなるほどよ思えるが、犯人グループのメンバー構成に重要なファクターが潜んでいる。

故セルジオ・レオーネ監督あたりが存命ならこんな映画を作ったかも知れないという思いに駆られた。復讐する側も善人ではないので、ひたすら暗い緊張感が持続する。金のためなら仲間だろうと手を下し、生き残った者が勝ちという冷徹な価値観は、ロシア近代史でも見ているかのようであった。混戦の中で復讐の相手が死亡してしまう可能性もあった訳だが、それくらいは大目に見てあげよう。

役者はステイサムのアクションがとにかく見事だった。「トランスポーター」シリーズのような演出過剰なアクションではないのがまた気に入った。その辺りは、かつてアクションたっぷりの「シャーロック・ホームズ」を見せてくれたガイ・リッチーらしさと言えるだろう。

音楽担当は聞いたことのない人だったが、同じ音程を執拗に繰り返しながら低音部に重要な旋律性を持たせるという作り方が、エンニオ・モリコーネを彷彿とさせるものであったことに嬉しくなった。あと少しメロディアスな曲があって聴く者の胸を揺らしてくれればという思いもあったが、とにかくこの映画の持つ雰囲気をしっかりと観る者に植え付ける手腕には感服した。今後も注目したい作曲家である。

演出は画面の隅々にまで注意が行き届いていて、期待を裏切らない作りであった。この話をシリーズ化するのは無理だろうが、別な作品でこの監督とステイサムの組み合わせを見たいものである。
(映像5+脚本4+役者は5+音楽4+演出5)×4= 92 点

アラ古希