「心が痛くなる」こちらあみ子 だるちゃさんの映画レビュー(感想・評価)
心が痛くなる
まだ観ていないが、最近公開された綾瀬はるか主演のルート29という映画に興味があり、その監督の初期作品という事で、レンタルDVDで鑑賞しました。
主演の子役は、ルート29にも出演していた大沢一菜という子らしいのですが、女子だか男子だか判らない独特な外見と、どんな波乱にも一切動じない無頓着さ、言い換えれば最強の鈍感力を表現し切った演技に驚かされました。
あみ子の人格の設定が、ADHDの様な病理的な原因によるものなのか、単に天真爛漫なだけなのかは判りませんが、他人の機微にも無頓着だし、自分が酷い仕打ちをされても無頓着だし、悪意はないにしても、周りの「常識的な」人達がことごとく影響を受けて人生を破綻させていくにも関わらず、本人はそれでも飄々として我が道を突き進む姿勢に、複雑な気持ちになりました。
ピュアすぎる故に、周囲に理解されず取り残されてしまっている可哀想な存在なのか、それとも無邪気過ぎる言動故に周囲を不幸にしている悪魔的な存在なのか、理解に苦しみました。
こちらあみ子という風変わりな題名も、作中に登場するデバイスから取られていたのだと判りましたが、劇中では結局これが通信成立する場面はなかったし、終盤では片方を紛失してもはや一方通行でしか存在し得なくなった状態になっても尚これは捨てきれず、逆に本来は家族の思い出が詰まっているはずの別デバイスは、執拗に捨てようとする場面は、いつまでも周囲に理解されず、一方的な送信のみで終わってしまっている人間関係と、一番大切にしたかったものが何なのかを物語っている様に感じました。
最後まで感情を露わにしない父親にも、優しいのか冷たいのかよく判らない不気味さを感じるし、本当は優しいはずの兄も義母も、本音が見えないし、そんな無関心な周囲に囲まれて健気に生きているあみ子が不憫に感じました。
あの世からの誘いも毅然と跳ね除け、毅然と生きていく超鈍感な姿勢に、生物としての根源的な強さを感じました。
最後に声をかけてくれた人が誰なのかは判りませんが、救われれば良いなという一抹の清涼感を感じました。