「国民の健康をバイエルに売り渡した本当の元凶は」食の安全を守る人々 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
国民の健康をバイエルに売り渡した本当の元凶は
農産物の安全を脅かすバイエル社(モンサント社)の悪徳商法と、ロビイストを経由してバイエル社を支えるアメリカの政治家と役人、彼らの言いなりにバイエル社に有利な法律を次々に成立させる日本の政治家と官僚、商品の危険性を隠そうと協力する御用学者たち。バイエル社の商売に便乗して儲ける日米の商売人たち。潤滑油は既得権益と賄賂だ。加えて脅しや恫喝、それに保身もあるだろう。欲望と恐怖の薄汚い循環によって一部の悪人たちの利益や地位が守られている。
しかしその一方では食の安全が失われて、人々の健康が冒され、中でも子供たちの脳にまで影響が出ているとあれば、黙っている訳にはいかないと、そうして立ち上がった人々の現在進行形の話が、本作品である。
元農林水産大臣の山田正彦さんは、昨年秋に公開された「タネは誰のもの」をプロデュースして、食の安全が脅かされていることを種子法の観点から、わかりやすく説明してくれた。今回は危険な毒物であるグリホサートが残留することによる人体への悪影響をわかりやすく説明してくれた。
グリホサートを主成分とするラウンドアップは、最近テレビCMなどで日本でも知られるようになった超強力な除草剤で、根っこまで枯らすから草むしりが不要になる。農作物も枯らすが、遺伝子組み換えをした農作物(GMO)は枯らさない。だからモンサント社はGMOとラウンドアップをセットで販売する。大型農機を使用するアメリカの大規模農家の多くが、手間が削減できるモンサント社のやり方に乗っかってしまった訳だ。
ところがその後ラウンドアップの主成分グリホサートが危険な農薬であることが判明する。日本では米のグリホサート残留基準を0.1ppmとしたが、小麦のグリホサート残留基準は30ppmである。実に米の300倍だ。給食でパンの日と米の日がある学校で調査したところ、米の日にはほとんど検出しなかったグリホサートが、パンの日には検出されたらしい。
グリホサートの危険性は、胃で分解されずに腸に届き、善玉菌を死滅させて悪玉菌の活動を活発にすることで腸壁に穴を開け、空いた穴から血管に侵入し、脳に到達して人体に様々な弊害を齎すことにある。うつ病や自閉症が増加したのも、もしかするとグリホサートが原因かもしれない。
日本の種子法を改正して農家からタネを取り上げたのも、グリホサートの残留濃度の基準を緩和させたのも、いずれの元凶もバイエル社である。山田さんは、自社の利益のために政治家に圧力をかけ、農家からタネを奪って、GMOとラウンドアップを押し付けるバイエル社のやり方を断固阻止しようとして頑張っている。農林水産大臣の頃から頑張っていた。しかし既得権益の壁は厚い。大臣でも変えられなかった。と言っても3ヶ月間の大臣では、ほぼ何も出来なかったのは当然だ。
山田さんは諦めない。一点突破が難しいのなら、活動の幅を広げて民間から、GMOとラウンドアップ、改正種子法を拒否する運動を広げて、日本国民の食の安全を取り戻す。
日本政府はGMOやラウンドアップを許可し、種子法と種苗法を改正して種子の権利をを知的財産権としてバイエル社に売り渡した。農家は自家増殖もできなくなり、毎年バイエルから種子を買わなければならない。その種子はGMOであり、農薬と肥料を加えたセット販売になっている。農家は利益を失い、バイエル社のために働く奴隷になる。政府はGMOではないと製品に表示することを禁止して、有機農法や自然農法を弾圧している。何が嬉しくて国民の健康をバイエルに売り渡すのか。それが子孫にまで誇れる政治なのか。
しかしそういう政治家が当選し、山田さんは落選した。日本の有権者は安倍晋三や菅義偉と同じく、今だけ、金だけ、自分だけという未来のない人格破綻者に等しい。子供が自閉症やうつ病になったのは学校や企業のせいだとして鬼のようなクレーマーになる人が多いが、子供に与えた食事が積もり積もってそうなったことは考えない。自分のせいではないとして悪の原因を他に求めるにもかかわらず、政治に責任があることに思い至らない。国民の健康をバイエルに売り渡した本当の元凶は、日本の有権者なのだ。