「今ひとつだが、それでも価値がある映画」食の安全を守る人々 Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)
今ひとつだが、それでも価値がある映画
「ヒューマントランス有楽町」で、このような映画を上映し、かつ、山田プロデューサーのトークがあるとは驚きだった。
昨年までなら、映画「タネは誰のもの」の時のように、「アップリンク渋谷」で上映&トークがあったはずだ。
上映して儲かる映画ではないはずだが、引き続きこういうドキュメンタリーを上映する映画館が残ってほしいものである。
自分は予告編を見て、「New GMO」、すなわち「ゲノム編集」に関する作品を期待して観に行った。
たから、除草剤「ラウンドアップ」の話で占められた前半には、「いささか古い話だ」と初めは困惑したが、杞憂であった。
モンサント社(バイエル社)が裁判で負けたことは知らなかったので、素直に驚いた。(山田プロデューサーが、何度も「日本では全く報道されない」と嘆いていたが、マスコミの政府への忖度だろうか?)
また、マウスの発がん性試験において、主成分「グリホサート」よりも、“未表示”の危険な成分、例えば「ヒ素」が効いている可能性があるという結果にも、大変驚いた。「ヒ素」が入っているなんて、ホントなのだろうか?
一方、後半の「ゲノム編集」のところで、有望株選抜のためのマーカーとして、「抗生物質耐性遺伝子」が、運び屋「ベクター」に組み込まれていることを、初めて知った。
(ただし「抗生物質耐性遺伝子」は「ゲノム編集」だけでなく、「遺伝子組換え」試験でも一般に使用されるようである。)
ただ、あまりにも話が駆け足だし、ゴチャゴチャしていて、何を言っているのか、自分はさっぱり分からなかった。
「日本で年間8000人が死んでいる」とか、「WHOは使うべきではないと言っている」とか、一体何の話だったのだろうか?
もっと丁寧に、順序立てて説明すべきではないだろうか。あたかも、突っ込まれると困るので、超速で流したようにも見える。
本作の中で、このあたりは、かなり不満だ。
また、こういうアクティビスト系映画にありがちな、偏った話も気になった。
最近、「禍いの科学 正義が愚行に変わるとき」(日経ナショナルジオグラフィック社)という、非常に面白い本を読んだのだが、そこでレイチェル・カーソン著「沈黙の春」が批判されている。
確かにアメリカのような先進国では「DDT」の禁止は、必要なことだったかもしれない。しかし発展途上国においては、「DDT」の禁止のために、より多くの命が失われたという。
少し主張が“前のめり”な作品で、いろいろと詰め込んで統一感もなく、理解困難なところもあって、今ひとつな作品だ。
ただ例えば、公共セクター、特に学校給食での有機農産物の利用の推進を訴える点は素晴らしい。
また、なんと言っても、日本政府の“売国奴”ぶりを歯に衣着せず告発するのは、マスメディアにはできない、ドキュメンタリー映画ならではの良さである。