「パンデミックと菌根」イン・ジ・アース 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)
パンデミックと菌根
閃光の連続的な表現があるので光過敏てんかんへの注意書きが必要だと思う。
主人公は農作物の成長をたすける菌根の研究者。野卑な雰囲気がでるジョエル・フライが演じている。
土壌調査のため森に入った先発隊から音信が途絶えたので後発隊が探索に入る。が、森でマッドサイエンティストの襲撃に遭う──という話。
草木や石などすべての自然は音を発している。──と、オリヴィア(Hayley Squires)は言い、その音と周波数を共鳴させる音響機器をつかって対話を試みている、らしい。正直、何やってんのかよくわからないが、ミッドサマーのようなフォークロア狂信者に生け贄にさせられそうになる。
映画は新型コロナウィルスの草創期にBen Wheatley監督自身によって書かれていて、パンデミック体験がパラノイア的解釈を経て伝承ホラーになったという感じ。変わり種な気配に満ちていてわくわくしたが、それほどでもなかった。
Imdb5.1、RottenTomatoes80%と24%。
一般評が低いのは何やっているのかわからないから。だが、カルトになりそうなムードはあった。
おそらくこの映画はBen Wheatley監督の新型コロナウィルスにたいする不安の産物であろう。
ジョーダンピール監督が新型コロナウィルスを経験して“Nope”をつくったようにWheatley監督はこれをつくった。
すなわち“不安”が主人公になっているからロジックには欠けてしまったが何かに昇華させたいというスピリットは感じられた。
かえりみると新型コロナウィルスを意識しはじめたのはだいたい2020年の1月で、2月には惑星全体の懸念課題になっていた。
ただし本気になったのは2020年の半ばごろだったと思う。“本気になった”とはこれが終わらない──つまり変異しながら永遠に居続けるウィルスだと気づいたときだ。
英語wikiによると、本作にたいするRottenTomatoesの総意は「人類につきまとう残存するパンデミックの恐怖についての思索」とのこと。
たとえばThe Last of Usは冬虫夏草の変異体に浸食されて滅亡する話だったがじっさいのパンデミックとなれば人類はたまゆらに絶えるわけじゃなく何年も混乱と恐慌をくりかえしながらじわじわと終わっていくのだ。
──それを今実体験しているのかもしれない“不安”をなんとか具象にしようとした形跡がIn The Earthにはあった。が、まとまらなかったという感じ。にしても、変わっていたので興味深く見た。