劇場公開日 2021年10月8日

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「治療困難な精神疾患を題材にした超難解作品」草の響き R41さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5治療困難な精神疾患を題材にした超難解作品

2024年6月6日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

「そこのみにて光輝く」「きみの鳥はうたえる」と同じ作家の作品のようだ。
彼特有の世界観は、起承転結のない純文学そのものだ。
この作品もまた非常に難解だが、見ることのできない人間の心を言動描写として表現している。
同時に「他人の気持ちに触れやしないよね」というヒロトのセリフがこの作品全体を覆っている。つまり、「それは当然だ」ということだろう。わからなくてもいいのだと思う。
作品は群像的だ。
ジュンコが出会った犬猫好きな少女はヒロトの姉のメグミで、彼女は「持たない者」で「持つ者」に夢や憧れを抱いている。
ジュンコは彼女から見て「持つ者」だが、一番大切な夫のカズオを見捨てる決断をした。
ジュンコは3度カズオに問いかける。「私が重荷になってない?」
表面上否定するカズオ。正月に実家に帰ったときに父との会話に切り込んだジュンコ。「カズ君は幸せなの?」首を横に振るカズオ。彼の本心を知った。
そして隔離病棟で「なんでこうなったの、私たち?」 妻の手を握って「ごめん、自分のことばっかりしか考えられなくて」と涙を流したカズオ。女の子の名前を考えようとしない彼に踏ん切りをつけた瞬間だったのだろう。
東京に向かう車の中で函館の街には現れないというキタキツネをとうとう見るが、それは彼女が思う生き方を選択できたご褒美だったのだろう。一番大事だと思っていたものを捨てることで得られる「普通である幸せ」を選択できた喜びの象徴だ。
この作品のテーマは「持つ者」と「持たない者」と「幸せ」とは何かについて視聴者に問うていると思った。
ケンジも「持たない者」で、親友の家族や生まれてくる赤ちゃんのことをうらやましく思っているが、「持つ者」である主人公カズオは、独身で自由なケンジの方が幸せだと思っている。
同時に、頭がよくてスケボーができて一流大学を目指せるアキラを、ヒロトは羨ましく思う。
冒頭登場するアキラのスケボー技術は高いが、坂道をを滑走する彼の行為は非常に危ない。アキラは基本的に他人の生き方に興味などなく、恐怖に挑戦することで自分が生きているという実感を得ていたのかもしれない。
ある日、カズオのジョギングを見て一緒に走り始めたアキラ。ヒロトも慌てて着いて行く。それは、アキラがカズオに共鳴したからだろう。この二人は群像だ。
ヒロトはアキラに高校中退をほのめかすが、アキラはヒロトのことに干渉しないと言う。ヒロトはアキラの無関心さに腹を立て、何か言って欲しかったんだと叫ぶが、アキラはそれを無視する。アキラはその後同級生たちとの会話の中で登場した7メートルの岩から飛び込み死んでしまう。
途中からジョギングに参加しなくなったアキラが気になるカズオ。
ヒロトから彼の死を告げられ、カズオはまた深い心の闇の中に落ちていく。
カズオはおそらくアキラの死に深い共感を感じていたのだろう。同時に感じる自分という人間の喪失。
ジュンコの話した「世界一幸せな洗濯」とは、「世界一幸せな選択」という意味ではないのか?
彼女自身がその選択をした。最後に病院の外へ出て走り出すカズオは、ジュンコの選択を知らないが、その感覚をどこか無意識の領域で受け取り、ようやく自由になった解放感に満ちあふれたのではないだろうか?
人はみな持ってるものをどうしても手放さないようにして生きているが、手放してしまった方が楽になることもあると、この作品は伝えているように感じた。
この考え方こそ新しい時代の新しい考え方としてこの作品は提供しているのだろう。
このような難解な作品は妄想することでしか理解できない。

R41
Bacchusさんのコメント
2024年6月6日

私はどうやら超強メンタルらしいので、なおさらこの作品を理解出来ない部類なのかなと…(*_*)

Bacchus
琥珀糖さんのコメント
2024年6月6日

コメントありがとうございます。
東出昌大は好きな俳優で、出演してれば必ずみます。
この映画の妻(奈緒)は原作にはないそうです。
そんなんで原作は成立してるんでしょうかね。
佐藤泰志は実際に結婚して子供が3人位居るはずです。
子供や妻を残して自殺するのも、自分を優先した生き方。
この映画の主人公は妻に去られます(ここは映画化にあたり付け加えた?!)
死んでから6作品も映画化されるなんて、大作家でもないのに
不思議ですね。
村上春樹と変わらないですよ。映画化作品数。

佐藤泰志は村上春樹と同年生まれらしいです。
生き方上手と、生き方迷走・・・。
確かに難解な生き方、というより行き当たりばったりに
生きたのかもしれませんけど。

琥珀糖