「【男は走る、精神の健康を取り戻すために・・。男は走る、何かから逃げるように・・。そして、妻はある決意をする。繊細な人間模様を、男と若者達との交流を絡ませて描いた作品。】」草の響き NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【男は走る、精神の健康を取り戻すために・・。男は走る、何かから逃げるように・・。そして、妻はある決意をする。繊細な人間模様を、男と若者達との交流を絡ませて描いた作品。】
ー カズオ(東出昌大)は、自立神経失調症になり、東京から妻(奈緒)と共に、故郷函館に戻って来る。不眠症になってしまったのか、病院から薬を処方されている。
そして、精神の健康を取り戻すために、運動療法として、ランニングを始める・・。-
◆感想
・カズオは、只管に走る。雨が降って来ても、夏の暑い日も。そして、タイムと走行距離をノートに几帳面に記録する。
カズオの函館時代の友人、ケンジ(大東駿介)は、カズオ夫婦を案じているのか、頻繁にカズオ宅を訪れる。最初に、カズオを心療内科に連れて行ったのも、ケンジだという事が語られる。妻の言う事をケンジが聞かなかったから・・。
- 東京からカズオと函館に来た妻は、孤独感を抱えている。そして、妻はカズオの只管の走る姿を”狂ったように・・”と表現する。意味深な言葉である。-
・カズオは、連日走る中、スケボーに乗る高校生アキラ(Koya)と彼の友人ヒロトと出会う。アキラは函館に来たばかりで、友達が殆どいない。ヒロトの姉エミと、3人は一緒にいる事が多い。
- カズオと妻とケンジの関係が、アキラとヒロトとエミの関係に見えてしまった。そして、後半カズオとアキラの哀しき行動がシンクロするのである。-
・カズオの妻に子供が出来る。トイレで小用を足していたカズオが検査道具を見つけた時の、二人の反応。
ー ”子供が要らないの?。””そんな事、ある訳ない・・。”-
・ケンジが、カズオ宅を訪れ、元教え子から貰ったというメロンを3人で食べるシーン。妻は言う”元生徒から、メロンが届くなんて、慕われていたのね・・。”
ケンジはカズオが来ているにも関わらずランニングに出掛ける。
別の場で、ケンジはカズオの妻に言う。”アイツ、昔は何でも上から目線で見る、嫌な奴だったんだ・・。”
・アキラはバスケ部の同級生達から”夏になったら、海の岩場から飛び込もうぜ。ここら辺では皆経験しているよ・・”と言われ、”良いよ”と答えるが、彼は泳げなかった。プールで練習するアキラ。心配そうに声を掛けるヒロト。
- 再び、カズオとアキラがシンクロして、見えてしまう・・。-
・カズオが、走っているとヒロトが寄って来て、”アキラが死んだ・・”と告げる。動揺するカズオ。
- 画面では、アキラは一度は遊泳禁止と書かれた看板の前で注意されるも、彼が再び岩の上から海へ飛び込むシーンが映される。-
・カズオは、いつものように妻とケンジと飲んだ後、震える手で、睡眠薬を大量に酒と共に飲みこむ。翌朝、異常に気付いた妻のお陰で、胃洗浄をし、一命をとりとめるカズオ。
- 妻が涙を浮かべながら、カズオの事が好きになった理由を語るシーン。
”何で、こうなっちゃったのかな・・”
カズオは、妻の心の変化に気が付かない・・。
奈緒さんの哀し気な表情が、心に残る。凄い女優さんである。-
<妻は、愛犬と共にフェリーで東京に帰ると、近所の若い女性に言う。
そして、走らせる車の中で、妻は初めてキタキツネを見て、涙ぐむ。
助手席に置かれたスマホにはカズオからの電話着信があるが、彼女は気が付かない。
カズオは病院から妻に買ってきて欲しいモノを留守電に入れる。
繊細な人間模様を描いた、繊細な趣の作品である。>
□東出昌大さんという、稀有な若手俳優さんが、自らのスキャンダルで映画に出ることが少なくなり、この作品が、3年ぶりの主演作だそうである。
劇中、主人公の走る姿が東出さんと被って見えてしまった。
矢張り、素晴らしき俳優さんである。
苦しいだろうが、頑張って頂きたいと今作品を鑑賞して、思ってしまったよ・・。
<2021年11月28日 刈谷日劇にて鑑賞>
NOBUさん
コメントへの返信有難うございます。
原作者の佐藤泰志さん、何度も賞の候補者になられた方なんですね。自死された事は鑑賞後に知りました。
他者が考える以上に、精神的なダメージは本人にとっての負荷が大きいと私も感じています。
ラスト、観る者によって違いそうですね。純子なら、出産後に二人で和雄の元を訪れると私は信じたい…です。
NOBUさん
自分を気遣ってくれる家族や友人の優しさを感じながら、どうしようもない自身の弱さに苦悩する主人公の姿、交わす会話がリアルで、心に留めておきたい作品の一つになりました。