「心底うんざりした」太陽とボレロ 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
心底うんざりした
クラシックの演奏場面はそれなりだが、映画としては不出来な作品である。水谷豊監督の作品は「TAP THE LAST SHOW」や「轢き逃げ -最高の最悪な日-」がそれなりに面白かっただけに、本作品はあまりにも残念だ。
もともと水谷監督の脚本は、昭和の時代から一歩も抜け出せていない。台詞は月並みで、光る言葉がひとつもない。表情や演技は類型的で平凡だ。それでも前作までは、それなりのリアリティがあった。ところが本作にはリアリティさえなくて、水谷監督の悪いところしか出ていない。
西本智実さんの指揮するコンサートには何度か足を運んだことがある。力強くてドラマチックな指揮をする人だ。本作品で披露した「アルルの女ファランドール」は出だしからして迫力満点で、勢いは留まるところを知らず、その迫力のままフィナーレを迎える。コンサートホールで聞いたら感動するに違いない。「白鳥の湖」も「ボレロ」もとてもよかった。
音楽はよかったのだが、それ以外はまったく駄目だった。なにせストーリーにドラマ性がないから、観ていてダレる。母親役の檀ふみの演技だけは光っていたから、母と娘の波乱万丈の物語に、コンサートホールの立ち上げの苦労を重ね合わせれば、それなりのストーリーになっていた気がする。本作品は主役が誰かわからず、なんとなくの群像劇みたいで、高校の演劇部の芝居よりひどかった。後半になって、もしかしたら檀れいが主役なのかと思ったが、主役にしては存在感がないし、人間的な深みがない。演技でカバーしようにも、檀れいの演技ではそれも叶わない。
同じように楽団の人間模様を描いた映画「マエストロ!」は味のある作品だったが、本作品には何の味もない。人に対する愛情も音楽への愛もなく、ただ言葉が上滑りするだけだ。ステレオタイプのありふれた台詞を学芸会みたいに喋る檀れいには、心底うんざりした。