「原作を希釈しており改変が多め」そして、バトンは渡された ぽよのすけさんの映画レビュー(感想・評価)
原作を希釈しており改変が多め
血のつながりがなくても、人は誰かを想い、育て、受け継いでいく──そんな“バトン”の意味を優しく描いた作品。ただし、映画オリジナルの改変には複雑な気持ちも残る。原作愛があるばかりに勿体無いなと思えるところが多くあった。初めに映画から見ていればもっと楽しめるだろう。
特に、梨花さんが亡くなるという改変には違和感。
奔放で、我儘で、でもそれすらも“生きている証”であり、愛すべき梨花さんだったはず。
亡くなったからこそ美化されるような描き方は、彼女の本質を単純化しすぎてしまっていたと感じた。
愛は自己犠牲の上にあるものじゃない。
“未完成なままの人間同士の愛情”の積み重ねこそ、この作品の魅力だったと思う。
また、原作では丁寧に描かれていたエピソード──
・水戸さんと優子の関係性(“水戸さん呼び”の背景)
・森宮さんの重みあるセリフ
・引っ越し先の大家さんとのやりとり
・向井先生との関係(学校という第三の場に現れた理解者)
などがカット・簡略化されていて、全体的に“希釈された”印象も受けた。
特に向井先生は、優子にとって家庭の外に現れた大人として重要な存在だった。
映画でその存在がごっそり抜け落ちていたことで、優子の成長や“語る力”の芽生えが、やや唐突に見えてしまった。
さらに気になったのは、優子のキャラクター描写の違和感。
原作の優子は、どこか達観していて淡々と日々を受け止めるような印象だったが、
映画ではやや“いじめられ描写”が過剰で、笑顔でヘラヘラとやりすごすような描かれ方をしており、内面の繊細さや芯の強さが伝わりづらくなっていたのが残念。
とはいえ、時間軸の交錯(幼少期と高校生の優子を並行して描く構成)は非常に巧みで、映像ならではの良さが光っていた。
ピアノや料理といった“モチーフ”を軸にして、視覚的にバトンが繋がっていく演出には感心。
そしてなにより、石原さとみの演じた梨花さんは圧巻。
小悪魔的で、計算高くて、でもどこか憎めない。綺麗で可愛くて、周囲の人を翻弄しながらも惹きつけてしまう魅力を見事に体現。
あの演技があったからこそ、梨花さんの存在がより立体的に感じられた。