「本物のアクション」シン・仮面ライダー KeithKHさんの映画レビュー(感想・評価)
本物のアクション
『シン・ゴジラ』を監督し、『シン・ウルトラマン』を総監修した庵野秀明監督が、昭和の子供向けSFヒーロードラマを、またも映画にリメイクした本作ですが、前2作を遥かに優る、濃密で強烈な思い入れと入れ込みが感じられる作品です。
オープニング冒頭から注釈なしで、台詞のないバイオレンスアクションシーンが次々と展開し、短いカットを小刻みに細かくつないで、いきなり早いテンポで小気味よく物語が進みます。ジェットコースターのように、観客が息つく暇なく一気に物語に引き込まれていくのは、アメコミ映画のようです。
が、ひと段落した後は物語の背景や経緯を説明するシーンになり、急にテンポが間怠くなってしまいます。ロジカルにストーリーを進行しようとして理屈っぽくなり、軽快だったテンポが滞り、観客を冷静に戻してしまうのは如何にも惜しい。よく意味は分からないがとにかくワクワクさせていた陶酔感を一気に冷ましてしまい毀損してしまいました。元来奇想天外でイロジカルな設定なのだから、科学的に辻褄を合わせようとする意義は不要で、観客に一切論理的思考にさせないように突っ走るべきでしょう。
また登場人物が少人数に限定され、而も単純に正義か悪かに峻別できるシンプルな人物設定の一方で、各人のキャラクターは凝りに凝った扮装と暴力性を持ち、各々の人物(怪人?)が非常に濃密に描写されて強烈な印象を観客に与えてくれました。
ただ、そもそもが子供向けのSFアクションである原点を忠実に遵守したがために、敢えて広大で深遠な世界性は加味されず、ストーリーが展開する時空間は極めて狭い領域に設定されています。大人感覚としては、映画としてのスケール感がこじんまりとした感は禁じ得ません。この点はやや不満が残ります。
原作のTVドラマの基本線を守って即物的にストーリーが進んでいきますが、ラスト30分辺りから、急に人間的な情感が盛り込まれ世界観が変質し、役者の演技が肌に纏わりつくような湿潤さに覆われてきました。長回しや寄せアップも増える。そして迎えるラストの池松壮亮扮する仮面ライダーと森山未來扮するチョウオーグのアクションシーン長回しは、2時間の本作の中で唯一の手持ちカメラで撮られたために、混沌とした躍動感と緊張感に満ち、久々に見応えのあるアクション映像でした。やはりVFXを使わず人間同士が生の肉体と肉体をぶつけ合うと、スクリーンにも高い熱量の迫力、互いのギラギラとした感情の昂ぶりがモロに伝播してきて、観客の潜在的闘争心を鷲掴みにして掻き立てます。庵野監督の、アクションへの徹底したこだわりと執着が強く感じられるシーンでした。
『シン・ゴジラ』『シン・ウルトラマン』が明るい画調のヒューマンドラマだったのに対し、本作は終始暗い画調で人間性が薄く無機質的に演出されたのも、庵野監督の本作への思いの深さの証左だと思います。
それは、エンドロールでのクレジットで、少なくとも5つ以上に名を連ねていたことからも改めて実感します。