エンドロールのつづき : 特集
【世界一の映画ファンはインドにいた!】
その人が、映画愛全開の作品を撮ったら…どうなる!?
少年が映画に恋し、自力で映写機を開発したほぼ実話!
世界中の映画祭で観客賞に輝いた“珠玉の一本”が、日本へやってくる。1月20日から公開される「エンドロールのつづき」だ。
物語は驚きに満ち、映像は美しい。そして映画愛にあふれ、観れば必ず幸福な気分に浸れる。貧しい少年が映画に恋し、映画を撮る……のではなく、なんと自力で映写機を開発するのだ! しかも、監督のほぼ実体験というからまたすごい。
さらにさらに、その監督も「世界で一番の映画ファン」を自負するほどの人物で、持てる知識と愛をフルにぶち込み製作した――。もうこの時点で“すごい事実”が波のように打ち寄せてくるが、映画.com編集部が実際に観てきたので、その魅力を詳細にお伝えしよう。強烈にオススメ、この作品!
世界中の映画祭で5つの観客賞を受賞し、規格外な絶賛を受けるとともに、アカデミー賞の国際長編映画賞にインド代表として選出。辛口で知られる映画批評サイト「ロッテントマト」では、2022年8月30日時点で100%支持を得ている(90%以上は歴史的傑作にのみ与えられるハイスコア)。
【特徴】新時代の「ニュー・シネマ・パラダイス」!
貧しい少年の異常級の映画愛、驚きの日々…ほぼ実話!
あらすじを知りたい人は、ぜひ予告編などから確認してもらえればと思う。ここでは、今作の特徴をご紹介していこう。
●世界一の映画ファンがつくった、愛にあふれる感動作…観ればもっと、映画が好きになる
メガホンをとったのは、インド出身のパン・ナリン監督。早くからアメリカやトロント国際映画祭で評価された、映像センスに長けた俊英クリエイターである。
同監督の最大のポイントは、自称「世界一の映画ファン」! 異常なまでの映画愛を持つ彼が撮った作品となると、どのような仕上がりなのか気になるが……これが素晴らしかった!
今作はタイトルが出る前に「先人たちに感謝を」との文言、そしてリュミエール兄弟ら数々の名監督たちの名前が表示されるから、もう気合いの入り方が違う。
やがて、まるで現代版「ニュー・シネマ・パラダイス」とも言える物語が展開。映画に恋した貧しいチャイ売りの少年・サマイ(3000人のオーディションから選ばれた新星で、むちゃくちゃ演技がうまい!)と、映写室のおじさん・ファザルとの交流が描かれる。
そこに、インドの固定的な身分制度ゆえのドラマも。サマイは「映画を作りたい」と告白するが、父親は「チャイ売りの少年はチャイ売りにしかなれない」などと反対する。サマイは葛藤する。夢を叶えるにはこの町を出るしかない。だが家族は賛成などしない。そして何より、挑戦は親友・ファザルとの別れを意味する――。
さて、あなたはおそらく“胸のときめき”を感じたはずだ。それに抗わず、まっすぐに今作を観に行くといい。
●ありがちな物語じゃない…映画を観るため、映写機をつくるところから始める
物語の驚きとは? 今作は映画の魔力にハマったサマイが、映画を撮るために脚本を練ってみて……などという話ではない。いつでも好きなときに映画が観られるように、なんと映写機をつくろうとするのだ。観ていて、思わず「そこからかよ!」とツッコんでしまった。
なかでも興味深いのは、サマイの好奇心や探究心だった。鏡やガラス玉を通じた“光の屈折”に気がつき、映写機の原理を自力で発見。さらに壊れた荷車や扇風機などの鉄くずを集めてきては、解体・溶接(!)して、あれよあれよと新たな機械を組み立てたりするのだ。
この子たちにとって、生きる世界はすべて“映画”なのだ。その姿に、深い感銘と強い興奮を覚えた。
●さらなる“信じられないエピソード”の数々…しかしこれ、“ほぼ実話”!
そう、今作の見どころのひとつは、実は“サマイの行動力”。映画を観るためならなんでもする情熱をほとばしらせ、「そんなことまで!?」と観客を楽しませてくれる。
ほか、一例を挙げると……。
・父親が経営している売店の売り上げをくすね、映画鑑賞代に充てる・母親が丹精込めて作ってくれる弁当を、映写室のおじさんにあげ、代わりに映写室に入り浸らせてもらう・駅に保管されているフィルム(各地の映画館で上映する用)を勝手に盗み出し、切り貼りして編集し、オリジナルの映画をつくるこれでもまだまだ全体の一部。驚くべきエピソードの数々だが、なんとほぼ全てが監督の実体験=実話だというから何度も何度も驚かされる。
今作は静ひつなストーリーテリングが特徴で、「RRR」や「バーフバリ」シリーズとはまた異なるテイストの作品。だが、根底に流れる“異常なまでのエネルギー”と“印象に残りまくるシーン”において共通するものがある……この点が、今作を映画ファンにおすすめしたい最大の理由である。
【もっとグッときた所】A24ばりの映像センス!
極上&大満足の映画体験と、余韻残すラストに注目!
さらにさらに、実際に観てグッときたところは無数にある! 映像と音楽のセンス、そして物語のエモーションとラストの余韻だ。
●映像美と音楽のセンスが「A24」を彷彿… 全身で浸れる幸福な映画体験も◎
人間の生理にバチッとはまる映像美をもって、今作は“光”の魅力にクローズアップしていく。
サマイはさまざまな色のビンを拾っては、それを通して世界を見てみる。赤、青、黄色。毎日見ているはずの電車からの風景も、また別の景色に見えて、世界がぐっと広がった気がする――。
パン・ナリン監督は「ミッドサマー」「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」などで知られるA24を彷彿させる“全身で浸れる”映像と、いつまでも聞いていられる音楽で物語を彩る。暑苦しさや居心地の悪さはほぼ皆無。まさに“光の魔術師”ともいえるセンスと、アイデアを実現できる手腕は、世界でもトップクラスだと確信するほどだった。
この監督は要注目。必ずや、さらなる活躍をみせてくれることだろう。
●映画を愛するすべての人に捧ぐラスト… あらゆる人におすすめしたい超良作
“主人公・サマイが映画を楽しむ姿”自体が、映画好きとしての筆者の胸の扉をノックし続けた。
映画が始まると、サマイや大人たちはみんな、斜め上にスクリーンを仰ぎ見ながら、非日常の世界に浸る。映写機の光が劇場内の埃を照らし出し、それに手にかざすと、映画そのものも手に入れられたような気がした。
全身で映画を感じ、楽しんでいるようなサマイたちを見て、筆者も幼少のころに観た作品や思い出に考えを巡らせていた。こんな作品に出合えて、映画が好きで良かった――涙がこぼれる瞬間が何度も何度もあり、いろんな人に今作を伝えてまわりたいとも思った。
そしてラストシーンも“最高”の一言に尽きる余韻。まだ見ぬ良作を求める人や、「RRR」にハマった人や、A24作品が好きな人には特におすすめの超良作。映画館での鑑賞ならば魅力は三倍増するので、ぜひ映画館でご覧あれ。