「なんとも不思議な戦闘シーンを楽しめる」Mr.ノーバディ 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
なんとも不思議な戦闘シーンを楽しめる
肉を切らせて骨を断つという言葉があるように、格闘術に長けた者同士の争いは、一方的な展開になることはない。日本の時代劇ドラマのように正義の味方がやたらに強くて大勢を相手に無傷で勝ち切るなどというのは、実際はあり得ない話である。ただ、ボクシングの井上尚弥選手のように圧倒的な強さを見るのはスカッとする部分もある。映画やドラマの格闘シーンでは、その両方の点を睨んで、リアリティを出しつつもスカッとする結果も出したい訳だ。
本作品は、流石に「ジョン・ウィック」と製作チームが同じだけあって、戦闘シーンはリアルで迫力があり、しかもスカッとする。主人公の年配の男性がそれほど強そうに見えないところがいい。この役をドウェイン・ジョンソンがやったら、全く別の作品になっていただろう。
毎日同じことを繰り返す平凡なおっさんである主人公ハッチが、実は驚くべき経歴の持ち主で、経歴に相応しい超絶した戦闘能力を持っているという話である。平凡なままで終わりたいという本人の願いに反して、ちょっかいを出してくる小悪党がいて、その小悪党が大悪党につながっていたために大規模な戦闘になってしまう。このエスカレーションはアメリカのB級映画にありがちだが、面白いことは面白い。
本作品で特徴的なのが、ところどころスローモーションを使うのと、それに合わせて往年の名曲が効果的に使われることだ。そのひとつは「Don’t Let Me Be Misunderstood」である。沢山の歌手によってカバーされている。日本では尾藤イサオが「悲しき願い」というタイトルでカバーしたことで有名で、尾藤イサオの代表曲でもある。もうひとつはルイ・アームストロングの「What a wonderful world」だ。こちらも沢山の歌手がカバーしている名曲だ。スローモーションに名曲が重なって、なんとも不思議な戦闘シーンを楽しめる。
家族のためなら自分の面子など捨てて構わないが、家族の平和と安全が脅かされるようなら命がけで戦う。観客である自分には決してできないことを、この平凡な年配のおっさんがやる。その覚悟と実行力が痛快である。
ハッチの過去と正体がいまひとつ説明不足に感じたので、もし続編が製作されるようであれば、是非観たいと思う。