「タイトル回収」バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版 カリカリ梅さんの映画レビュー(感想・評価)
タイトル回収
まず最初に、ドラマ版はアントールドストーリーと言って、原典の中でも、名前だけは出てるけども実際の事件の内容はよく分からない事件を、名前だけをヒントに作っている。
しかし、映画版のバスカヴィル家の犬は、原典がある。ドラマ版が原典のリメイクではなく独自の雰囲気を持った重いドラマなので、日本版シャーロック・ホームズ、バスカヴィル家の犬のリメイクと考えない方がいい。
ちなみに私はただのドラマヲタクなんですが、ディーン・フジオカさんの主演ドラマにハズレはないな……と改めて思った。特に「モンテ・クリスト伯」の、1話完結でないと視聴者が脱落してしかねない現代において、こうも録画ではなく、毎週見なければ!と惹き付けられるものがあったドラマの珍しさ、重い内容ゆえにディーンの雰囲気がマッチしているのが素晴らしい。
ディーンがやると何やってもディーンだな……ってのはあるとして、「シャーロック」は特にお茶目なディーンで、若宮ちゃんとの軽快な掛け合いが面白く、重い内容の中のコメディとして楽しめる。特に冒頭の「もう少しお話を」「もう少しお金を」の場面がお気に入りだ。
「モンテ・クリスト伯」はそもそも同じプロデューサーの作品なのだが、これまで岸井ゆきのさんや、葉山奨之さんもドラマに出演しており、今回の映画では稲森いずみさん、渋川清彦さんが再共演し、特に稲森いずみは相変わらず母親役でとても良かった。
特に馬場の遺書の中の回想で、殺される前のずっとこうされたかったという目線ともがき、死なせてしまった紅、ただ旦那に叱られたくないという理由だけでした誘拐、可愛がってあげられなかったことの全部への罪悪感が感じられた。
ミステリとしてフェアか、アンフェアかについては、五分五分と言ったところか。依羅の千里だけには甘い喋り方をする態度や、紅の「誰に似たんだろうね」から、姉弟の血が繋がっていないことは推測できる。逆に千里の父親が違うのか?跡取りとしての男児を産むために、馬場が父親なのか?等と考えてしまった。
「覗け」という指示はコンプラ的にどうなん?みたいな、きっと若宮ちゃんは誉の指示には何かしら意図があると思って、「見ちゃいけない」と「見ないといけない」との葛藤を抱えて見たんだろうな……と推測できる。風呂をうっかり覗いてしまって〜で正体に気付くのはミステリのセオリーなので、紅の身体に何かヒントがあるのはすぐにピンときたが、早すぎて、腕に何かアザがあるかのように見えた……馬場さんによる制裁に、紅は馬場さんが父親なのか!?と混乱してしまった。まぁ実際父親みたいなもんだけど。
よく考えれば、蓮壁のお父さん、娘の誘拐事件警察に届けてないんだよな。って思い出せれば、ディーンが警察署長と話した時の台詞もヒントになっただろう。
キャバクラでの客の話も、ヒントになることは分かってたが、「好きですよ、お説教タイプ」と、パパになるよ〜って言ってたのは小泉孝太郎さん演じる捨井なのかな?としか考えてなかった。それにしても「お説教タイプ」のシーンの若宮ちゃん、顔がイケメンなのに挙動不審のモテない男みたいな演技がよく出来てて、面白い。(ドラマでのモテない設定を引き継いでるが、顔がイケメンなので無理があるとは感じていた)
犯人について、私としては割と意外だった。端役に広末涼子を起用する訳が無いというのがあり、リフォーム店の調査をしているディーンの光景も相まって、怪しさしか無かったし、それか馬場さんかな〜と思ってたが、違った。やはり「シャーロック」の犯人が女性だったパターン好きなんだよなぁ。1話の松本まりかさん本当に大好き過ぎる。ルパン三世の峰不二子の「嘘は女のアクセサリー」のように、女性犯罪者の美しさってありますよね……消毒液を持って行った父親を確認して笑う様、特に印象深くて最高だった。
紅の描いた絵の碧い海に放り出されて落ちていく紅い服の女の子、正に心象風景で心が苦しくなった。身勝手な理由で誘拐されて、自分の子じゃないという罪悪感とバイアスによって可愛がれない母親の態度で、父親も影響を受けて、両親から愛されない子供が出来上がってしまった。実の子じゃないから、「だから紅は可愛くないのか…」という台詞に「嘘つけ!そもそもお前気づかなかったやろ!!!」という気持ちになってしまった。
蓮壁家の生贄であり、墓地に先に入れて犠牲になる犬である紅のことを「バスカヴィル家の犬」という意味で、縦に画面いっぱいにタイトルが表示され、タイトル回収されたことにゾワッとした。
終わり方については、もうちょっとなんかあったやろ……という気持ちなので、★1つ減らしてます。確かに地震のことは散々言われてたけど、せめてラブレター書いたんだからちゃんと守らないと意味ないでしょ捨井先生!メリバとは聴いていたが、涙も引っ込む終わり方でしたね……あと独自に捜査してたらしい、江藤父は結局なんもしてないんだよなぁ。ちょっと取ってつけた感はありますね。