劇場公開日 2022年5月27日

「まさにドラマのような実話。テレビ的演出だが、配信時代には合うか」20歳のソウル 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0まさにドラマのような実話。テレビ的演出だが、配信時代には合うか

2022年5月27日
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鑑賞方法:試写会

悲しい

吹奏楽部所属の高校男子・浅野大義君が応援曲を作曲し、野球部などの試合で演奏されるようになるが、大義君は音大進学後にがんを患い二十歳の若さで他界してしまう。「青春+難病」の創作物はこれまで数多く作られてきたが、これはまさに劇的な実話だ。

素材の良さは認める。日本人の琴線に触れる話だし、「市船soul」のサンバ風の三連符を活かしたリズムと旋律は彼が早熟な天才だったことをうかがわせる。けれど、たとえば葬儀場での演奏場面などは、6小節の演奏部分と4小節の声援部分を延々と繰り返し、生徒たちと顧問教師・高橋(佐藤浩市)の泣き顔のアップで涙を誘おうとする、いかにもお涙頂戴の演出がテレビ的。ただまあ、スマホなどの比較的小さな画面でも視聴される配信の時代にはこんなわかりやすさが合うのかもしれない。

劇中、大義(神尾楓珠)が書いたオリジナル曲の楽譜の一部を高橋が×印で削り、短くする場面がある。これも実話に基づくようだが、たとえばプロの編曲家とミュージシャンに協力してもらい、削除されたオリジナルのパートを再現し、さらにアドリブでメロディーやリズムを展開するような白熱のセッション場面があれば、音楽的にもより楽しめる映画になったのではないか。

あるいは、劇中で「市船soul」は野球部の応援に使われる場面ばかりが描かれるのだけれども、実際の市立船橋高校は多種目のスポーツで強豪校であり、特にサッカーは2010年代にも国内外での大会で何度か優勝している(一方で野球部の甲子園出場は2007年が最後。大義君の卒業は2014年)。“神曲”などと持ち上げるくらいなら、いっそ「市船soul」の応援のおかげでサッカー部が大会で優勝した、くらいに少々盛った話にしてもよかったのではとも思うが、予算の問題など大人の事情もあったかもしれない。

高森 郁哉