劇場公開日 2023年11月17日

「展開が早すぎる。」鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎 NandSさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0展開が早すぎる。

2024年2月5日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

難しい

前提として
・『ゲゲゲの鬼太郎』シリーズはほとんど未視聴。
・原作と思しきものは未読。
・古賀豪監督の他作品は未視聴。

めちゃくちゃ巧い。しかし、情報の多さと展開の早さについていけなかった。

まずは内容から。
鬼太郎関連の秘話を、父(ゲゲ郎)と水木という人間の視点から描くという物語。
聞いた話だと、鬼太郎誕生の物語を拡大解釈したものらしい。公式の二次創作みたいな感じだろうか。違ったらごめんなさい。

舞台は戦後日本。復興に心血を注いでいた時代。
この時代設定がかなり効いてくる。日本人の奥底に眠る心理描写や、地方に伝統として残る因習村の気持ち悪さ、そしてかつて居たとされる妖怪たち。
これら全ての説得力を時代設定だけで補強している。巧い。

次にキャラクター。
主人公の一人である水木は、戦後日本の空気感を一心に纏ったようなキャラクター。何を利用しても生き残って上り詰めてやる、という野心がある。そこには、戦争によるPTSDからの逃避もあるのだろう。生きることを目的としているように見えて、死に直行する危うさを持ち合わせるのが皮肉ではないか。

逆にゲゲ郎は、日本が捨てたものを一心に請け負ったようなキャラクター。幽霊族(妖怪に近い存在)の生き残りという設定が拍車をかけている。行方不明の妻を捜しに来たのも、疎開した人間のようで物悲しい。死人のような生き方だ。

この二人が出会い、最初は反発し合うも、相棒に変化していく。
そして次世代のために"生きること"を選ぶのがいい。"死"を選んだように見えて、次世代に"託す"のがこの作品のミソだと思う。
あと二人の関係性がちょうど良い。二次創作漫画が大量に創られるのも頷ける。俺も読みたいもん。お酒と煙草を交わしながら話し込む様子とか最高じゃん。
逆に言うと、そういったシーンは基本描かれないものと覚悟した方がいい。絶妙に届かない、いじらしさがあるとも言える。

他にヒロインや龍賀一族も居るが、ここでは割愛する。ネタバレを極力避けたい。気になる人はぜひ映画館へ。

少なくとも、心理描写はしっかり描いてある。必要な要素が揃っている。しかし刺さらなかった。理由は後述。

因習がまた気持ち悪く、これが少しづつ明らかになっていくにつれて、哭倉村の異常性が倍増していく様は圧巻。ここまで負の要素を掛け算できるのがすごい。しかもヘイトを一点集中できるなんて……構成まで巧いのか。

アクション描写もいい。疾走感と水墨画チックなカッコよさが巧く組み合わさっている。妖術とも合う。
欲を言えば、水木のアクションをもう少し観たかった。あいつ、元戦争兵だぜ? サポートとして戦えるだろ。

屋敷や田舎の雰囲気、後半のおどろおどろしさは凄まじく良い。阿鼻叫喚の地獄絵図も非常に好き。呪いの話だからね、ここまで描いて正解だと思う。
観ている側のカタルシスにもつながって非常に良かった。

良かったところはいっぱいある。人気が出るのもリピーターが生まれるのも納得がいく。
逆に、ここから先は気になったところを挙げていく。実はこっち側に一番書きたいことがある。

ホラー描写。『ゲゲゲの鬼太郎』ということで案外多い。のだが、アニメだからか全然怖くない。仮に子供向けで怖さを抑えたのだとしても、物語の内容が大人向けすぎる。少なくとも私には物足りなかった。主軸はホラーではないから良いのかな。

ゲゲ郎に子供が居ることが判明するシーンがある。本人も知らない背景があるのだが、その演出が不満である。直後の展開を考えても、演出の選択肢として正解ではないと感じた。あのままいくのなら、その空気感をぶち壊す意味合いとして、悪役の言動を分かりやすく見せてほしい。

さて、大きな問題点を書こうと思う。すなわち、"情報量の多さ"と"展開の早さ"だ。

"情報量の多さ"自体は問題ないのだ。伏線回収力がすごいから。全ての要素を落とすことなく拾い尽くしている。もはや神業である。
水木とゲゲ郎の目的は明確だし、敵の目的も分かるし、何を悪としたいのかも分かる。何を見せたいのかも分かる。

俺の中で問題になったのは、そこに"展開の早さ"が加わったからだ。
感情移入したくても展開が早く、キャラクターの心理も次の段階にシフトするのでついていけない。
一つの謎が提示されて、「これは何だろう?アイテムにも見えるけど」とか考える暇もなく物語が進んでしまう。結局、何が鬼太郎関連の謎で何が関係ない謎だったのかも把握できないまま終わってしまう。

こうなってしまった理由は二つあると思う。

一つは、自分が『ゲゲゲの鬼太郎』をほぼ知らないということ。
話題になっていると聞いて、このシリーズに手を出したのだからしょうがない。なので、私みたいな立場の人は、観る前に軽く調べておくことをオススメする。鬼太郎と目玉おやじのことだけでいい。他は後で調べると深みにはまれるはず。

もう一つは、現代の視聴スタイル用に作ってあるということ。つまり、"倍速視聴"回避と"バズり"促進である。
圧倒的な情報量と展開の早さは、近年話題になっていた"倍速視聴"を回避するのにうってつけだ。通常速度が疑似的な"倍速"なので、たとえ映画館にいても退屈はしないのだろう。それと、詰め込める情報量も増やせる。
逆に情報量が増え過ぎたために、このスピードにした可能性もある。どっちみち納得はできる。

情報量が増えると、リピーターや考察動画や解説動画も増える。結果、バズる。それだけ深みがある作品と言えるからだ。
ジャンルも様々なもの(バディ、妖怪、怪談、家族、因習村etc…)を組み合わせているので、疑似的に万人受けするものとなっている。

メリットは多々あるが、余韻がない。劇中の余韻が本当に無い。水木が嗚咽するシーンとか本当に早すぎてびっくりした。
俺は余韻に浸りたいんだ。これはアニメだからとか『鬼太郎』だからとか関係ない。要素と繋がりだけ見せられても俺は感動できない。良いと思えたからこそ感動したかったし興奮したかった。なのにできなかったんだ、スピードが早すぎて。
ちゃんちゃんこの件はグッと来たけどな。

この作品の問題点というよりも、現代の変化によるものだし、そもそも俺の推測および感想でしかない。俺がターゲット層から外れていた可能性もある。
だから、この作品は自分の眼で観てほしい。他人の評価とか関係なく観てほしい。ハマる人はハマるのだ。興行収入とノミネートがそれを表している。

それと、この作品は日本人向けだが、外国の人にこそ観てほしい。日本の悪しき・気味悪き部分を如実に描き出しながら、かっこよき(と我らが考えている)部分も強く輝かせている。そしてなにより日本のオタクには、どういうところが刺さるのか分かりやすい造りになっている。
日本文化を勉強したい人にもオススメ。
まぁ色々書いたし、評価は低めにつけたけど、興味を持ったら観てくれ。

面白かったけど、色々と考え込んでしまった上に、ターゲットではないのかもとちょいと悲しくなった。そんな作品。

NandS
だけんさんのコメント
2024年2月7日

余韻無さすぎるって書かれてる水木が長々泣けない部分水木は戦争の後遺症を表してるシーンだと思った。
食事シーンでも時間かけずに詰め込むように食べているのをわざわざ描写しているので、安全な状況でない、他にまだやる事が残されている限り一瞬で嘆くのをやめざるを得無いんじゃないかと。

だけん
サラさんのコメント
2024年2月6日

もともとこの映画は120分で作ったのを大人の事情で105分に短縮させられたらしいですよ!
だから尺を巻き巻き状態になったのはそのせいだと思われます!

サラ