「コメディエンヌ ジュリエット・ビノシュ」5月の花嫁学校 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
コメディエンヌ ジュリエット・ビノシュ
日本の綾瀬はるかや広瀬すず、少し古いがアメリカのマリリン・モンローのように、優れた女優はコメディエンヌとしての能力も高い。本作品でのジュリエット・ビノシュもまた、コメディエンヌとしての豊かな才能を発揮している。
コメディらしくストーリーは単純で、1967年のアルザス地方の古臭い花嫁学校を舞台に、悩める生徒と悩める教師たちが平穏な学園生活を送るが、自由な気質を持つ生徒たちと、昔ながらの封建的な考え方の教師たちとの間に微妙な食い違いがある。
折からパリを中心に発生した自由化の機運が田舎の学校にまで及ぶ微かな兆しを感じさせる中、ある事故をきっかけに、主人公ポーレットは女性が自分の名前で口座を開くことができるようになったことを知る。時代は変わったのだ。シモーヌ・ド・ボーヴォワールの「第二の性」が発表されたのが1949年。18年の歳月を要して漸く新しい考え方が田舎の花嫁学校の校長を変えたという訳である。
フランス映画らしく性にはおおらかで、花嫁学校といえども性教育はある。そのシーンを楽しみにしていたのだが、ポーレットの恋がはじまってしまい、残念ながら性教育のシーンは割愛されてしまった。
本作品は映画自体をコメディにしているようなところがあり、ラストではインド映画を思わせるようなシーンとなる。唐突なシーンで驚いたが、これはこれでいいと思う。
毅然とした封建主義者を演じていた花嫁学校の女性校長が、歳を経てなお新しい恋をし、女性の自由に目覚めていくのが主眼であり、割と無理やりな主人公のキャラクターをジュリエット・ビノシュがその卓越した演技力で押し切ってしまった感がある。多分だが、本作品のためにジュリエット・ビノシュは少し増量してボリュームアップしたと思う。田舎の花嫁学校の校長にピッタリの体型になっていた。大した女優である。